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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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比翼の鳥は囀りて

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その空は濃藍の


 そして二百五十六代目女王、新宇宙の初代女王アンジェリークと守護聖としての生活が始まった。
 予想通り二人で会える時間はほとんどなくなってしまったが、手紙のやりとりは続いていた。

 稀に直接持参することもあったので、いつだったか何故わざわざ手紙を書くのかと訊いたことがある。
 そのとき女王アンジェリークは翠玉の目を細めながら答えてくれた。
「形に残したいんです。そうしたら、いつでも見られるから」

 当初ルヴァにはその理由が今ひとつピンとこなかったが、今となってはそれが二人を繋いでいるとすら思えた。
 会いたくてどうしようもないときには、手紙に書かれた文字を眺めるのが日課となった。
 アンジェリークは本当によく頑張っていて、愚痴めいた言葉を書いてくることは一切ない。ただいつも添えられる文香のほのかな香りだけが彼女の心情を表しているようで、ルヴァの胸を一層切なくさせた。
 謁見の際に候補時代よりも幾分やつれた彼女を見ているしかできない自分が、とても歯痒かった。愚痴でも不満でも何でもいいから、もっと頼ってくれたらいいのにと思う。
 そんな折、ある日アンジェリークから届いたカードには、珍しくルヴァへのささやかなお願いが書かれていた。

────先日はジャスミン茶をありがとうございました。とっても美味しくてお気に入り!
            追伸  鶴が一羽で寂しそうなので、もう一羽ください。  アンジェリーク     


「はてさて。鶴、というと……ああ、あのときの折鶴ですね!」

 初めて彼女から封筒が来た日を思い出す。それ程昔でもないのに、酷く懐かしい気がする。
 あれから折鶴は同封しておらず、今やなかなか外出もままならない彼女のためにと野の花を摘んでは押し花にしてカードへ貼り付けていた。
 この押し花作りも、アンジェリークから教わったことのひとつだ。
 知識としては知っていたが、楽しそうなアンジェリークにつられて作業する内にすっかり定着してしまったのだ。

 早速小さな折り紙を探し回った。
 綺麗な紙がいいだろうか。もっときらきらしているほうがいいだろうか。色々考えてみたけれどいずれもしっくりと来ない。
 結局折り紙用ではない、濃藍色の便箋を正方形に切って使うことにした。
 片面が濃藍色で金箔の星が散ったこの便箋は、アンジェリークがくれた小箱の色合いと良く合っているので気に入っている。

 ふと罫線をぼんやりと見つめたそのとき、自然とペンが紙の上を走っていた。

 ────あなたに逢いたい。逢って抱き締めたい。
 あなたの幸せを、ずっとずっと祈っています。

 溢れる想いを包み込むように丁寧に折り畳む。
 思わず書いた文字は濃藍に隠されて、やがて鶴の形へと変わっていった。
 カードにはいつもよりも少し熱い想いをしたためて、折鶴とともに封をした。

────私の魂の片割れへ、永遠の愛と忠誠をこめて。
            追伸 大変でしょうがくれぐれも無理をなさらぬよう。 ルヴァ


 彼女が女王になってからは、すぐに返事が来ることは少ない。
 それでも三日と空くことがないところを鑑みると、自分は相当優遇されているほうだと感じる。
 今度の返事は一日後にやって来た。

────わたしの魂の片割れへ、永遠の愛と尊敬をこめて。 アンジェリーク

 今回の手紙はいつもと違って、署名と文香のそばにアンジェリークの淡い口紅がつけられていた。

 もしかしたら折鶴の内側を読まれたのかもしれない。
 けれど、寂しいとはっきり言えない自分への気遣いのように思え、嬉しくなって口紅の痕にそっと唇を重ねた。
 そこには勿論柔らかさも熱さもない。
 しかし文香の香りが……ジャスミンの花の香りになっていることに気づいた刹那、ルヴァの胸は締め付けられるように酷く痛んだ。

「天に在りては願わくは比翼の鳥となり、地に在りては願わくは連理の枝とならん……」

 仰ぎ見た天井へ向けて呪文のように紡ぎ出されたその呟きは、文香の残り香とともにすぐに部屋へと溶け込んで、掻き消えてしまったけれど。
作品名:比翼の鳥は囀りて 作家名:しょうきち