比翼の鳥は囀りて
そうして数年が過ぎ、色々な困難を越えて神鳥の宇宙はようやく安定をしたと言えたその頃。ついに……、その時はきた。
初めは少し眩暈が酷いような気がしていただけだった。
それが日を追うにつれ、徐々に体に力が入らないようになっていった。たっぷり採血をした後のような感覚が一日中ずっと続き、やがてルヴァは気づいた────己のサクリアが尽きかけていることを。
すぐさま女王陛下への謁見を願い出て、人払いをした部屋には女王アンジェリーク、補佐官ロザリア、そしてルヴァの三人が集まっていた。
最初に言葉を発したのは、補佐官ロザリアだった。
「どうぞお掛けになって……。それでルヴァ、お話というのは?」
ルヴァは喉がからからに渇いて言葉が出てこなかった。
お茶で喉を湿らせ、息を長く吐いた後……静かに切り出す。
「……新しい地の守護聖を、探してください」
ロザリアがこちらを凝視したまま言葉をなくしている。
アンジェリークの表情は、この部屋に入ってきたときと変わらない。泣くことも驚くこともなく、淡々とした声が部屋に響く。
「わかりました。すぐに捜索させます」
彼女は本当に強くなったと思う。
女王としての威厳が備わり、もはやルヴァが知っていたアンジェリークではないようにすら思えた。
だが直後に彼は気づいてしまった。
アンジェリークの両手が、色を失うほど固く握り締められていたことに。
……こうやって。
ずっとこうやって、悲しみも怒りも悔しさも何もかも全部を、抑え込んできたのだ。
誰にも気づかせないように。心配をかけないようにと。
強くなったのではない、強く在ろうと耐えているだけだ。
ルヴァは先程の自分の思い込みをひたすら恥じた。
音もなく立ち上がったロザリアがアンジェリークの肩に手を置いて告げた。
「アンジェ、あとの手配はわたくしにお任せなさいな。今はルヴァとゆっくりお話してなさい。じゃあね」
女王候補の頃のような口ぶりなのは、この補佐官もまた、アンジェリークを心配しているからなのだろう。
「それではルヴァ、わたくしは早速使いを出してきますわね。陛下を宜しくお願いします」
「ええ、こちらこそ宜しくお願いしますね、ロザリア」
優雅な一礼とともに、やはり音もなく扉が閉まった。