比翼の鳥は囀りて
「あなたにもね、お願いがあるんですよー」
「なんでしょう?」
「あの歌を歌ってくれませんかー?」
「いいですよ。ちょっと緊張しちゃいますけど……」
すっ、と短く息を吸って、目を閉じたアンジェリークが歌い出す。
公務で人前に出ざるを得なくなって慣れたのか、以前のように怯えた様子はかけらも見当たらない。
穏やかな表情で紡がれる歌声に耳を澄ませた。
────金に螺鈿に 輝く星のまたたきを いまついばむ比翼の鳥となれり
天地分かつ さだめ繋ぎしこの腕 地に根ざして連理の枝となれり────
ルヴァもその歌声につられ声を紡いだ。
驚いて目を開けたアンジェリークに、続けて歌うように視線を向けた。
透き通る高音に、ルヴァの温かく柔らかい歌声が重なる。
────鳥よ 我が魂の片割れよ きみ行く先に幸あれと思ひ染む
鳥よ 我が魂の片割れよ……────
そこでアンジェリークの声が震えた。
「くもりなき、ひむかしの……そら、さえずり……て」
堪えきれずにぼろぼろと泣き出したアンジェリークを、すかさず腕の中へ閉じ込めた。
「実はね、一緒に歌ってみたかったんです。早速願いがひとつ叶いましたねー」
頬を寄せ、ぎゅうっと思い切り抱き締めて囁いた。
「あの歌は……まさに私の想いそのものですから」
「ルヴァ……、っ」
涙を零しながら何かを言いかけたアンジェリークの唇を塞いだ。
この期に及んで彼女に何も言わせないように誤魔化してしまう己の気の弱さには呆れ返る。
いまは何を言われても、泣いてしまいそうだったから。
愛しい人の前では笑顔でいたい。笑顔だけをその瞳に刻み付けたい。
「あなたがくれたもの全てを持っていきます。本当に、あなたとの時間はとても幸せでした」
まるで今生の別れのような言葉に、アンジェリークの翠の瞳がどうしてと告げていたが、言葉にならない。
とうとう俯いて肩を震わせ始めた彼女の背を、髪を、何度も何度も撫でさすった。
どんなに離れていても。何があっても。
死ですら私たちの絆を断ち切らせはしない。
だからどうか、あなたの行く先に幸あれと────
「……さあ、もう行かないと」
離れ難い気持ちをどうにか抑え、アンジェリークの背に合図を送ったのだった。