比翼の鳥は囀りて
白猫アンジーとの一人と一匹の生活も五年が過ぎた頃、居住区域の緑化事業がようやく実を結び始めた。地の守護聖としての経験とその膨大な知識量はプロジェクトの根幹となり、強い支えとなっていた。
ルヴァ自身は砂漠が好きだったが、砂漠の生活自体は豊かとは言えない事をその身で知っていたため、この星に降り立ってからずっと関わってきたのだ。
手始めにこの星の地質を徹底的に調べ上げ、粘土質の層を探した。次に乾燥や塩害に強い植物の種子を中心に採集して回った。そしてそれに堆肥や肥料を混ぜこみ、採掘した粘土と合わせた塊を居住区域の砂漠周辺にばら撒いた。種子は環境に適応できる種を選りすぐっているため、その土地の気候風土に合ったものだけが発芽する。
それと平行して居住区域のすぐ東にある湖から水源を確保し、地表灌漑と排水設備を整えた。
安易に最新の科学技術の力を使いたがる者には、面と向かって言い返したこともある。
「まずは現在眠っている資源を活用しましょう。海水の淡水化などはその次の段階でもいいと思います」
大きな力は使い方を誤れば星が滅ぶ事態にもなりかねない。
だからこそ間違わないために、もし間違えてもまた立ち上がれるように、知識と知恵が必要なのだ。長年司った、地の力が。
多少の時間はかかっても、もとより眠ったままの資源を活用し蘇らせる。
それだけの底力をこの大地はまだ持っているはずだ。
宇宙をまるごと転移させてしまうほどの大いなる力と慈愛を持った彼女の、女王アンジェリークが愛してやまない星の一つが、そもそもそんなヤワなはずがない。
だから私はここで、私にしかできないことを、精一杯やり遂げる。
それがあのときあなたに伝えたこと。と同時に、私があなたから学んだこと。
あの人の横に立つにふさわしい自分で在りたいのだ。いつだって。
「そうでしょう? アンジェリーク……」
小さく囁かれた寂しげな呟きを、アンジーだけが聴いていた。