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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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比翼の鳥は囀りて

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 気がつけば日が暮れて、群青の空に星々が瞬き始めていた。
「さあ、冷えてきましたからもう戻りましょう。何か食べに行きませんかー」
「いいですね! おなかすいてきちゃいました」
 アンジェリークを立ち上がらせ、手を繋いで車を置いた場所へと歩き出す。
 助手席のドアを開けてアンジェリークを先に乗せ、ルヴァは運転席へと乗り込んだ。

「夕食の後は……あのー……えっと。う、うちに来てくれますよね?」
 これから夫婦として一緒に暮らすのに今更、とも思ったが、口にするにはやはり勇気が要った。
 一瞬アンジェリークが固まったことに、ルヴァはまだ気づいていなかった。
「……うーん、どうしよっかなぁ」
 予想していた答えからは大きく外れた言葉に、ルヴァは目を丸くした。
「えええっ、な、なんでですかー。何か気を悪くするようなことしちゃいましたかー」
「ルヴァ」
「は、はいっ」
 ただならぬアンジェリークの雰囲気に、思わず姿勢を正す。
「町の人から、あなたが女の人と暮らしてるって、聞きましたけど」

「…………はいー?」

 一体どこでそんな話に、とルヴァは頭を抱えた。
 確かにいつまでも独身でいることで色々言われもした。
 早く結婚しろだの娘紹介するだの言ってお節介なバ……高齢女性が特に煩かった。
 ああ、そういえば。
 以前しつこい糾弾に呆れていたら、仲間が助け舟を出してくれたことがあった。
 ルヴァ先生のおうちにはアンジーという可愛い女の子が住んでいるから無駄だ、と。
 たまに服が毛だらけになっていたから仲間内では暗黙の了解、ちょっとした冗談だった。

 まさかそれがこんな形で広まっていただなんて!
 しかもよりによって一番誤解されたくない人の耳に入って!

「ご、誤解ですよアンジェ! アンジーは確かに女の子ですが、猫です。あなたと同じ翠の目で……」
 と、真っ青な顔で必死に訴えるルヴァをよそに、アンジェリークはもうだめ、と呟いてぷっと噴出した。

「あと、ルヴァ先生は男が好きだから、お前なんて相手にされない、とか言われたんですよー?」
「……女性には興味ありません、と言っただけです。うっかり前半に『アンジェリーク以外の』と付け忘れてしまって……」
 アンジェリークとは誰か、などと突っ込まれたくなくて言葉をごっそり削ったせいで、しばらく男につきまとわれてえらい目に遭っていた、などと言える筈がなかった。
「…………!!!」
 アンジェリークは既に声も出ないくらいひーひー笑っている。目尻に涙まで浮かべて。

「そんなに笑わなくたっていいじゃないですかー……」
 色々と不愉快な出来事を思い出して、思わず仏頂面になってしまう。
「ご、ごめんなさい。面白くって……っ」
「ここまで一途に想っていたことを褒めていただきたいところなんですがねぇ」
 女性からの誘い自体も割とあった、と思う。対応に困るケースを含めて。
「そうよね、ちゃんと待っててくれてありがとう。愛してるわ」
 いまだ仏頂面のルヴァの頬に口付けをすると、途端に表情が緩んだ。

作品名:比翼の鳥は囀りて 作家名:しょうきち