二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

比翼の鳥は囀りて

INDEX|32ページ/34ページ|

次のページ前のページ
 

「それでは行きましょうか。すぐそこなんですけど、良かったら腕をどうぞー」
 ついと腕を出すと、アンジェリークははにかんでそうっと白い腕を絡ませてきた。
 細い道を少し歩いた先に一軒のレストランが見えてきた。
「わ、可愛いお店ですねー」
「ここはですね、以前接待に使ったところでしてねー。先程連絡をしましたら、個室にしていただけました」
「えええっ、個室!」
「建物の外観は可愛いのですが、実は結構な老舗なんですよー」
「なんか、私たちみたいですね。中身は結構老舗、って」
「あー私なんかは特にそうなんでしょうねえ、うんうん」

 中へ入ると、昼間であれば美しい庭が見渡せそうな大窓のある個室へと案内された。
 テーブルの上には小さなアルコールランプの明かりが灯され、幻想的な空間を醸し出している。
 その灯火の明るさはドレスアップした彼女に深い陰影を与え、より美しく際立たせていた。

 食前酒に発泡酒を飲みながら、アンジェリークがにっこりと口角を上げた。
「こういうところで夕食を取るのってなんか新鮮ね」
 大陸視察のときは軽めの昼食が多く、女王になってからも聖殿内やルヴァの私邸が殆どで。
「そうですねー、私は星の視察の際に時々会食がありましたけど、あなたとご一緒したことはないですよね」
「ええ。大人のデートって感じで嬉しいな~。うふふ」
 アンジェリークは照れ臭そうに微笑んで、メニューへと視線を落とした。
「喜んでもらえたようで何よりです。このお店は伝統的な料理から創作料理まで色々ありましてね、幾つかおすすめしたいので今回はアラカルトにしようと思うんですが、何か食べたいものはありますか?」
「そうねえ……。あっ、ムール貝食べたいなー。しばらく食べてないし。でも砂漠で貝類って不思議な気分」
「交易ルートと輸送方法がしっかりしているので、この地域では食材の種類が豊富なんですよー」
「ほんとね、お肉も色々あるわ。……ええっ、何これ、ラクダのチーズ?」
「それ、おいしいんですよ。頼んでみますか?」
「ええ、メニューはルヴァにお任せするわ。特に嫌いなものもないし」

 ルヴァが幾つか注文をしている間、窓の外を眺めるアンジェリーク。
 暗さに目が慣れてきたせいか、満天の星空が見えた。

 ソムリエがワインリストを持ってきたので、アンジェリークが飲みやすそうな白を選んでもらう。
 ワインを片手に、ぽつぽつとお互い離れていた間の出来事を話していた。
「お酒を飲むあなたを見るのって、初めてのような気がしますねえ」
 アンジェリークが女王になってからも共に過ごした時間は勿論あった。けれども意識的にアルコールを避けてしまっていたように思う。
「ロザリアとジュリアスがね、公務で出される機会も増えるから、多少は味に慣れておきなさいって。最初はそんなに美味しいと思えなかったんだけど、今はわかるようになったわ」
 グラスを持つ仕草もすっかり板についていて、ルヴァは離れていた時間の長さを思った。

 やがてムール・マリニエールが運ばれてきた。
「わー、ここでもやっぱりポテトは山盛りなのね、ふふっ」
「ムール貝の船乗り風、ですねー。美味しそうです」
「これ、ずーっと前にエリューシオンで食べたんですよー。懐かしいわ!」
「これはワインがすすんじゃいますねー」
 さっぱりとした辛口の白ワインがするすると入っていく。
「ほんとはルヴァと一緒に食べたかったのに、同行をお願いしようとしたらいらっしゃらなかったんですよねー」
 別の惑星へ出張していた日のことか、とルヴァは気づいた。
「あのときは私も同行できなくて残念でしたよー。で、結局誰と行ったんですか?」
 少し気になっていたことを、思い切って訊いてみる。
「ジュリアスと。先に言っておくけど仕方なく、ですからね!」
 そのジュリアスも、アンジェリークに仄かな想いを寄せていた様子だったのを覚えている。
 そんな会話をしている内に、次の料理が運ばれてきた。
「こちら、季節の野菜とラクダチーズのショソン、ソース・ヴェルトでございます」
 半円形のパイ生地の中に、ラクダのチーズと色々な野菜が詰められている。
「ラクダのチーズだけだととても脂っこいんですけど、ブイヨンで煮たお野菜との相性がいいんですよ」
「あ、ほんのりトリュフの香りもしますね~。ラクダのチーズは初めてだわ」
「ねっ、珍しいでしょう?」
「でもルヴァ、ブルーチーズは苦手よね?」
「ええ、カビ……というのがどうにもね……ラクダのチーズはくどい、と聞いていたんですがこの料理は物珍しさに負けてつい食べちゃったんです。そしたら美味しくて」

 その後<サルシフィ(ゴボウ)のポタージュ>、<白身魚のブレゼ そら豆と共に>と続き、ジャスミンティーのグラニテで口直しをした。

 そしてメインの肉料理が運ばれてきた。
「こちら、パンタードのポワレ、アルティショー添えでございます」
 ホロホロ鳥のグリルに、アーティチョークや数種類のフルーツトマト、エンダイブなどが添えられていた。
「ソースはヴィネグレット……でいいのかしら。おいしいー」
 真剣な顔でソースに使われている調味料や食材を探す癖が、今もなお健在なことに安堵した。
 すっかり大人になり洗練された姿を知るにつれ、どこか手の届かない人になってしまったような気がしていたのだ。実際、至高の存在になってはいたが。
「あ……ごめんなさい、つい癖が出ちゃった」
「いいんですよー。あなたがあんまり綺麗だから、見惚れていたんです」
 ルヴァにじいっと見つめられ、お酒でほんのりと赤かったアンジェリークの頬がますます赤くなった。

作品名:比翼の鳥は囀りて 作家名:しょうきち