比翼の鳥は囀りて
湖からもう少し入った奥の森に、連理木はそびえていた。
「この木ですか? れんりぎって」
「そう、これはクスノキの連理木です。根元を見てください、別々になっているでしょう?」
木の根元を指差すと、アンジェリークが興味深そうに覗き込む。
「わぁほんとですね!」
「では今度は上を見てください。ほら、くっついていますよね」
「繋がってる……」
「連理木は根元が別々の二本の木で、枝や幹が途中でくっついたもののことなんです。全く違う種同士のこともありますし、この木のように同じ種の連理木もあります」
「……不思議ですね」
そうぽつりと呟くと、アンジェリークは風に吹かれてそよぐ枝葉を眺めていた。
「で、比翼の鳥と合わせて『比翼連理』と言って男女の深い絆を喩えているんですねー。では恐らく歌詞の元になった箇所を見てみましょうか」
ぱらぱらと頁をめくる。
「……はい、ここです。『但敎心似金鈿堅、天上人閒會相見』」
ルヴァはある一文をとんとんと指差しながら、聞き慣れない発音ですらすらと読み上げた。
「どういう意味なんですか?」
「金や螺鈿のように心を堅く持っていれば、天上と人間界とに離れてもいつかまた会えましょう、と。この話の中で金のかんざしと螺鈿の箱は半分に分けられ、形見として手渡されます」
アンジェリークは本から視線を外して、何かに気づいたようにこちらを見た。
「金や螺鈿のように、輝く星々をついばむ比翼の鳥……」
比翼の鳥は単体では飛べない。星々をついばみに行くためには飛ばなければならない。互いの強き想いは夜空を駆け巡るのだ。輝く星々の中で、褪せることなく。
「星のまたたきは、二人の想いのことを指しているんでしょうか……?」
「恐らくはそんな意味合いでしょうねー。例えば二人の思い出ですとかね」
「ルヴァ様。ちなみにさっきの比翼連理のところはなんて読むんですか」
「えーと……『在天願作比翼鳥、在地願爲連理枝』」
発音を聞き取ろうとしているのか、寄り添った姿勢で唇の辺りををじっと見つめられてますます落ち着かない。
「えー、えっと。つまらない話を長々とすみませんでした」
「いえ、とってもためになるお話でした! 意味がわかったんで、もっと感情を込めて歌えそうです」
そうして、翠のまなざしがふんわりと柔らかく微笑んだ。
「ルヴァ様の前で……またいつか歌ってみたいです」
優しい時間の中で、クスノキの連理木がさわさわと風に揺れていた。
まだ恋と呼ぶには幼い想いが、ルヴァの胸を満たし始めていた。
女王試験は、終盤へ差し掛かってきていた。