をさなごころ
「……これ、持って行かないか」
思い切って差し出した油紙の包みに、ギンコは訝しげに首を傾げる。
「俺のきものだ。もう少し小さくて着ないし、もったいないから」
色褪せ、すりきれそうなギンコのきものがずっと気にかかっていた。どうか恥とか哀れみとは思わずに受け取ってほしい。そう願う心が通じたか、ギンコはこくりと頷いて包みを受け取った。
「今夜は冷えるな。最後くらい家の布団で寝ていかないか」
ためらうギンコの手を引いた。
「大人どもは一晩中騒ぐ気だぞ、庭先じゃやかましくて眠れんだろう。俺の部屋なら静かだし、布団も余ってる」
並べて敷いた床の中、何を話すわけでもないが、傍らにギンコの寝息が聞こえるのが化野は嬉しかった。
翌朝目覚めると、もう二人の姿は消えていた。きちんと畳まれた布団の上に手紙の一つもないかと期待したが、濃い蟲払い香の残り香の他には何ひとつ残されていなかった。