あの人へのHappy Birthday
ゼフェルがアンジェリークのところへ歩み寄る。
「アンジェ、明日なんの日か知ってるか」
「え……?えっと……」
いきなりの展開にいまだ混乱したままのアンジェリークが口ごもる。
七月十二日、それはあの人の……。
「オッサンの誕生日」
「……うん」
「どうせ逢う約束とか、してねーんだろ?」
「うん……」
「逢いたいか?」
とても穏やかなゼフェルの声に、アンジェリークは少しだけ胸が痛む。
「え?……ええ、逢いたいわ……。でも」
戸惑っているアンジェリークの言葉を遮って、ゼフェルが言い切る。
「よし、決まりだな。今からおめーは誕生日の贈り物になるっつーワケだ」
ふわりとアンジェリークの体が浮いた。
「へっ!? えっ、ええええっ!?」
「思ったより軽いんだなー。あれだけ甘いモン食っててカロリーどこ行ってんだよ」
そのまますたすたと運ばれて、絨毯の上にそっと降ろされた。
「ルヴァへのサプライズだからこれに包まってもらうぜ。ちょっとの間我慢しろよ」
「ゼ、ゼフェル……?」
ふいに絨毯を持ち上げた手が止まり、ゼフェルの息がアンジェリークの額にかかった。
「……言い忘れ。今のおめーって、すっげー……可愛い」
困ったような笑顔で額に一瞬口付けると、すぐにくるくるとアンジェリークを簀巻きにしていく。
「あー、ゼフェルずっるーい! ぼくもキスしちゃえばよかったなぁ。陛下、可愛かったもん!」
ずるい、の一言に苦笑しながらオリヴィエが囁く。
「マルセル。隣にバレたら一服盛られかねないから、ヤメときな」
「わたくしもそう思いますわ……」
「じゃー行ってくるぜ」
ゼフェルが女王入り絨毯をひょいと小脇に抱え、扉へと向かう。
「私も手伝おうか?」
オリヴィエが扉を開けてゼフェルのほうを振り返る。
「いんや、このぐらい大丈夫だ」
「そう。それじゃあ頑張っておいで。しっかし、あんたもドサクサでよくやるねー」
声を潜めて「あんまり問題起こすんじゃないよ」と釘を刺すオリヴィエ。
「……わーってるよ」
「ゼフェル、明朝〆の書類は全て期限に余裕があるものだと、お伝えしておいて下さる? それと明日は二人ともお休みです、と」
「おう、わかった」
そして夢の守護聖の執務室を後にした。
作品名:あの人へのHappy Birthday 作家名:しょうきち