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ぽっぽこぽん
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novelistID. 59190
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ローリンガール

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私は“頑張れ”という言葉が嫌いだ。
理由は簡単。
私が努力を出来ない人間だからだ。
自分では最大限の努力をしている。
何故、その努力を認めずに親は更に“頑張れ”と言ってくるのだろう。

「あ、もうこんな時間! 学校行ってきます!」
「本当だ。 じゃあ、母さん、行ってくるよ」
「いってらっしゃい」

母に見送られて、私とお父さんは家を後にする。
父は駅へ向かい、私は自転車を漕いで学校へ向かうのだった。


「おはよー」
「あ、未来、おはよう!」
「おはよう、未来ー」

私のいつもの挨拶に、咲と詩織は笑顔で返してくれた。
その笑顔に、私の心がざわつく。
何で私はこんなにも苦しんでいるのに、何故2人は普通に笑顔を浮かべられるのだろうか。
ふとそう考えてしまった自分に対する嫌悪感に、私は表面上の笑顔を浮かべた。
今日も進学やらなんやらと言った講義が始まって、いつも通りに授業を受ける。
そして、放課後は自宅で勉強――
そうだ、私はもっと勉強をしなきゃいけないんだ。
もっと、もっと、人一番努力しなきゃいけないんだ。

人の波に流されて、私は気が付いたら朝の朝礼に出ていた。
外のカンカン照りの太陽が私の身体を火照らす。
太陽が私を溶かすかのような勢いで熱を送ってくる。
…あれ、おかしいな。
私、朝礼の舞台にいる校長先生を見ているはずなのに、どうして太陽が見えるんだろう?
どうして――

「未来ッ!」

暫しの浮遊感。
私の意識は太陽の熱とともに溶けるように消失した。





気がつくと、私は白い世界で白いベッドに寝ていた。
体が怠い。
あれ、私どうなったんだっけ?
「目が覚めた?」
「芽衣子先生…」
保健室の先生が、私の姿を見て安心したように朗らかな笑みを浮かべた。
「朝礼で倒れたのよ。 大丈夫? 気持ち悪いとか、ない?」
「あ…、はい、大丈夫です」
「ご両親に連絡して、迎えてきてもらう事になったから。
今は身体を休めなさい。
外の熱にやられたのね、貧血気味みたいだし、そういうのは予め担任の先生にでも言っておきなさい」
「はい、すみません…」

私はもぞもぞと布団の中に潜り込んだ。
視界が真っ暗になり、身体の不調が浮き彫りにされたように身に感じる。
そっか、私倒れたんだ。
額に手を当てると、仄かな熱が手の皮膚を通して感じられた。

「先生」

そうだ、人に話そう。
私の今、この不調を人に話してみよう。
そうすれば、この入り混じったくしゃくしゃの想いが楽になるかもしれない。
「大丈夫? 彰君」
「大丈夫ッス…。 昨日徹夜して勉強したのが来ちゃったみたいで…」
「あなた、最近結構倒れるわね。 徹夜何日目?」
「ははは…かれこれ1週間ぐらいは夜中まで勉強してるッス…」
「そう…、無理しないでね? 体壊しちゃったら元の子もないから」

吸った息が肺の中に逆流し、少しの間呼吸が止まった。
徹夜で勉強…。
あぁ、なんだ。
私よりもっと彼は悩んでいるんだ。
私なんかよりもっと努力して、その結果倒れたんだ。
私なんか――

全然、彼より努力してない。
今この先生に私の私情を打ち明けたら、「もっと努力しなさい」って言われるに決まっている。
努力するのが当たり前なんだ。
努力できない私は、私情を話す相手すらもいないんだ。
…このまま、惨めに潰れていくしかないんだ。

私の中で何かが壊れる音がした。


一刻ほどして、学校のチャイムが鳴り響く。
芽衣子先生は、眠っているであろう未来のベッドの周りを囲っているカーテンを開ける。
「未来さん? そろそろ起き…あら?」
彼女は、ベッドを二度見して周りを見渡す。
そこに、未来の姿はなかった。


――暑い。


気がつけば、私はカンカン照りの陽の光が照らすアスファルトを歩いていた。
勿論バックなどの私物は持ってきていない。
方角は、私の家と逆の方角。
このまま…、このまま…。
このまま、この熱が私を溶かしてくれればいいのに。
胃がよじれて中から何かが上がってくるような気持ち悪さと視界の滲み。
すでに私は“私"を保てなくなっていた。
溶けてしまえ、こんな自分なんか。
消えてしまえ、友達にも家族にも嘘の顔をする私なんか。
そう、こんな私なら…。

何したって構わないよね?

目の前には1軒のコンビニ。
私は透明人間にもなったかのように気配を消して中に入っていく。
入店音が鳴った気がしたが、そんなものは全く耳に入らない。
入口付近の店員は隣の店員と会話をしている。
大丈夫、気づかれていない。
私は、そこら辺に置いてあった小ぶりのノートを手にとった。
バッグは置いてきた、当然お金なんて持っていない。
そのノートを私はスカートのポケットに…。

入れようとした矢先、誰かに手首を掴まれた。
体中が冷えていく感覚。
手放していた意識が嫌でも戻ってくるのを感じた。
そして、私の驚いた顔を見下ろす顔を見てその人物の名前を無意識に呼んでいた。
「あき…と」
「未来」


明人の目は怒りの色に満ちていた。
当然だ、こんなところを見られたんだから。
こんな、ところ…?
私、万引きしようとした…?
自分のしようとしていたことが改めて分かり、体が外気と非対称に冷えていくのを感じた。
万引きなんて、犯罪の中では軽いほうだろう。
けど、犯罪は犯罪だ。
そんな事をしようとするものなら――

明人は私の手から強引にノートを奪い、元の棚に戻す。
そして、私の手首を掴んだままコンビニの外へ引っ張って行く。
外の生暖かい外気が再び私を包んだ。

「未来」
やめて、何も聞かないで。
「お前、何しようとした?」
お願い、こんな自分を見ないで。
「バッグはどうした? 学校は? どうしてここにいる?」
やめて――


「いやあああああああああ!!」

私の中で何かが弾ける音がした。
それは多分…。
私の、“心”そのもの。
私の手首を掴んでいた明人を手を強引に振り払おうと、私は全身の力を込めて暴れる。
だが、敵わない。
明人は一層強く私の手首を掴み、私を離してくれるような様子はない。
「やめてよ、離してよ!!
こんな私どうなってもいいの! どうなっても構わないの! どうなったって――」
「未来!」

次に私を包み込んだのは温かい明人の両腕。
明人の広い胸板が視界に迫る。
「大丈夫だ、落ち着け、大丈夫だから…」
明人は優しい手つきで私の頭を撫でる。
何度も、何度も。
慣れていない手つきで、大きな手のひらに包まれる私の頭。
自然と、私の中で溢れていたものが静まっていく。

そして、私の口から零れた言葉は

「ごめんなさい…」

謝罪の言葉だった。
昔から何も取り柄がなかった。
けど、周りの人達は普通に私に愛情を注いでくれた。
私が失敗をしても、周りは私をしっかり叱ってくれて、また私を愛情で包んでくれた。
愛情を受けた私は、周りに恩返しをしたくなった。
成績で、スポーツで、生活態度で。
けど、どうしてだろう。
周りの友達が普通にこなす事を、私だけが出来ない。
私の中には劣等感だけが積もっていくようになった。
いくら頑張っても、どんなに努力を重ねても、結果は変わらなかった。
けど、周りの人達は相変わらず優しくて。
作品名:ローリンガール 作家名:ぽっぽこぽん