いおの祝言
「……心配なんです」
眠らないように、いおは夜中に浜へ出てゆくことがあるという。あの巨きな蟲が果てた、遠い沖を見はるかすように、暗い海を見つめていたという。
「……昼間でも、沖を見てぼんやりしていることがあります。知らないうちに海に入っていたといって、腰のあたりまできものを濡らして帰ってくることも」
若者は巌のような肩を窄めて、庭先に両手を突いた。
「……見ているだけで、どうにもしてやれんのです、わしには」
ぱたぱたと、盥の魚が跳ねる。断末魔か。
「所帯を持ちたいなんぞと言ったせいで、いおが辛い思いをするなら、もう言わない。だから、助けてやってください。いおが案じているように、まだ蟲が付いているのなら、治してやってください」
「おいおい」
化野は裸足のまま庭へ降りると、潮の肩に手を置いた。
「蟲はいないとギンコも言ってる。気になるなら何度でも調べようが……」
「蟲ではなくて、いおの気持ちの問題だろう」
独特の香のする煙草を揉み消すと、ギンコは立ち上がった。
「出かけてくる。二日で戻る」
いおを独りにするな、という言葉に、二人は揃って頷いた。