名前を呼んで
「俺には背中を預けられないと申すのか?」
「そうじゃねーだろう、真田・・・」
「幸村であろう?」
「What’s?」
フルネームで幸村の名を言おうとしたところで本人に止められた政宗。眉根を寄せながら幸村に顔を向ける。すると至近距離で目が合った。幸村の眼は戦場で対峙した時のソレよりも更に鋭いように感じる。
「俺の名を、氏など付けずに呼んではくれぬのか?」
「Ah?なんでそう・・・」
「聞いているのは俺の方だ。」
政宗が尋ねようとすると、幸村はピシャリと遮った。その声には感情が含まれていないかと思えるくらい冷たい印象を受ける。
「もう一度問う。・・・俺の名を、氏など付けずに呼んでくれぬか?」
先ほどの攻撃的と思える鋭い視線とは打って変わって、今度は哀願の眼差しで見つめてくる。さらに、声色が甘い。まるで動物が求めてくるかのようだ。あまりの変わりぶりについていけず固まる政宗。その様子を、幸村は肯定と見たようだ。そうか、と洩らして眼を伏せる。次の瞬間、右手で左手首を掴み、そのまま斜めに引き上げた。幸村の腕が政宗の首を絞める形となる。
「グッ・・・テメェ、何しやがる・・・っ!」
苦しそうに幸村の腕を掴んで離そうと抗う。腕がギリッと音をたてる。その痛みに、幸村は僅かに眉を動かした。一方で、入っている力を抜こうとはしなかった。
「俺に背中を預けられなければ、名も呼んではくれぬ!ならば!!」
ここで一旦呼吸を置いた。政宗を苦しめる力を、幾許か緩める。政宗は抵抗するのをやめ、次の言葉を待った。
「ならば、苦痛を与えてでも改めてもらえば良いと言うもの」
「HA!それくらいの脅しがオレに聞くと思っているのか?」
再び視線を鋭くした幸村に対し、未だ首を絞められている状況にいる政宗は余裕の表情を浮かべた。
「脅し、か。そうだな。そうしたくは無かったが、それでも俺は自分の思うように事を運びたいと思っておるのだ」
「アンタ・・・coolじゃねーな」
政宗の刺すような視線に対し、幸村は自嘲するかのように笑みを浮かべた。そして、首を絞めていた左腕を下に持って行き、両腕を動かないように固定した。空いている手で政宗の肩にかかる髪を退かし、首を外界から遮断している襟を下げると、そこに顔を持っていった。
「な!?おい、やめ・・・!!」
制止の声を無視し、幸村は政宗の首に噛みつく。痛みを感じたのか、政宗は自身の拳を強く握った。次に幸村は噛み付いた部分に舌をなぞらせる。その瞬間、
「・・・・・・っ!」
政宗の体がピクリと反応した。これに幸村は口元を緩めずにはいられなかった。
「どうだ、苦痛であろう?さぁ、俺を名で呼ぶように改めよ・・・痛ぅ!」