神の真意を汲む化石
アンジェリークはあれからどうやって帰ってきたのか、とんと記憶がない。
あのキスのあと、とにかく心臓が煩くて、息が苦しくて手足が痺れた。心配して部屋まで送ると言い張るルヴァを、執務中だからと笑顔で押しとどめてきたはずだ。
(頭の中がふわふわするー……)
────あなたが好きです、アンジェ。
そっと触れた唇とともに囁かれた告白が、まだ頭の中で嵐のように渦巻いていて。
あんなにまっすぐに告白されたことなんてなかったから、これから先のことなんてまだわからないけど、今とても幸せで。
ベッドに寝転がり、ペンダントを窓辺へ向けてかざしてみる。光を浴びてきらきらと輝くシトリン。……あのひとからの大切な贈り物。
そしてふいにクラヴィスの言葉が蘇る。
────その石はおまえを良く護るぞ。元の持ち主と同じように、な……
(……そうだ。私からも、ルヴァ様に何かあげたいな)
棚の前にぺたんと座り込み、標本箱を開けた。彼女以外には知る者のないこの箱の中に、たったひとつ隠された秘密がある。
アンジェリークが長年少しずつお金を貯めてようやく手に入れた一点ものの石が、そこには入っている。
あのシトリンは長年ルヴァのサクリアの間近に在ったもの、とクラヴィスは言った。
アンジェリークが最初に手に入れたこの石ならば、女王の資質を持つと言われ女王候補などをしている自分の秘められた力も、この石が密かに受け取っているのではないか。
それにそんな話を差し置いても、本当にあのひとにふさわしい美しさなのだ。手放すのも惜しくはない。
その石の名は、<風景瑪瑙>ランドスケープアゲート。
────又の名を、「神の真意を汲む化石」という。