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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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神の真意を汲む化石

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 そして数刻後。

「失礼しまーす。ルヴァ様、チューリップを持ってきました!」
「ああ、今開けますよ。ちょっと待ってくださいねー」
 両手が塞がっているマルセルに代わって扉を開けた。
 新品種のチューリップを抱えて、緑の守護聖はにっこりと微笑む。
「ありがとうございます。えっと、花瓶はいつものところですか? ぼくが活けてきますから」
「いつもすみませんねー、ではお願いしますよ。その間にお茶を淹れておきますからね」
 チューリップを活けた花瓶が執務机の上にそっと置かれた。
「お花はここに置いておきますね。もしお邪魔でしたら、窓辺にでも」
「ありがとうマルセル。とても綺麗に咲いていますねえ。さあ、あなたもお茶をどうぞ」
「はーい。いただきまーす」
 マルセルはふうふうと息を吹きかけつつ熱い緑茶を飲んでいた。
「ところで、マルセル。先程はどんな話をしていたんです? 私とアンジェリークの名前が挙がっていたように聞こえたのですけれど」
 思い切って話を切り出した瞬間、マルセルの動きが止まった。
「話しても構いませんけど……先にぼくから伺ってもいいでしょうか」
 湯飲みをそっとテーブルに置いて、マルセルの長いまつげが伏せられる。
「ルヴァ様はアンジェリークのこと、どう思っているんですか」
 ルヴァは湯飲みから立ち上る湯気を見つめながら、暫し考え込んだ。
 マルセルが訝るのも無理はない。自分でも踏み込みすぎていると思うくらいだ。
「ええっと……少し情けない話ですが、あなたには正直にお話しますね」
「はい」
「その……好きか嫌いか、という意味では、好きなのだと思います。気になっている、というのが一番近いかもしれません」
 頭の中で慎重に言葉を選びながら、お茶を口に含む。
「ですから、あなたがたが彼女の部屋へ招かれている様子だったので……いい歳をしてみっともないですが、その、気になって」
「ルヴァ様は、アンジェリークの部屋に入ったことがないんですか?」
 驚いたように目を丸くさせるマルセル。
「ええ、ないんですよ。一度も」
「あー……ぼく、なんとなくわかっちゃいました」
 顎に人差し指を当てると、それからにっこりと笑って立ち上がった。
「やっぱりごめんなさい。アンジェリークが内緒にしたがってることを、ぼくからは言えません。だからヒントだけ」
 マルセルが扉へと足を向けた。ルヴァに背を向けたまま少し俯いて彼は言う。
「例えばぼくだったら、ぼくがカティス様に品質の悪いワインを贈るようなもの」
「あ……マルセル、待ってください。もう少しヒントを」
 ルヴァも慌てて扉へ向かったが、マルセルは笑顔のまま首を横に振った。
「……どこまでぼくたちの話が聞こえていたか分かりませんけど、あとはアンジェリークに確認してください。お茶、ごちそうさまでした」
 そうして静かに閉じられた扉の前で、呆然と立ち竦んだ。

 頭の中で、今聞いたばかりの言葉を思い返す。
 マルセルがカティスに、品質の悪いワインを贈るようなもの……。
 カティスはワインに関して抜きん出た才能を持ち合わせていた。
 そのいわばプロの彼に、品質の悪いワインを贈るような……。

────結構前から原石集めてるんだって……
────アンジェリークの部屋であの棚だけ違和感……

 ふとマルセルとゼフェルの言葉が蘇り、確信に近い考えが頭をよぎった。
 彼らが招かれて、私が招かれない理由、それは。

「あなたの好きなものの良し悪しを、私が誰よりも知っているから……でしたか」
 人より多少物事を知っているということが、あなたを遠ざけてしまう原因だったなんて。
「……知りたくなかった答えなど、今までなかったような気がしますね……」
 導き出された答えはルヴァの胸中に突き刺さり、抜けない棘のようにいつまでも痛んだ。


作品名:神の真意を汲む化石 作家名:しょうきち