神の真意を汲む化石
翌日、女王候補の特別寮へとやってきたルヴァ。
意を決してノックをすると中からひょっこりとアンジェリークが顔を出した。
「こんにちはアンジェリーク、もし良かったら今日一日一緒に過ごしませんかー?」
「ふふ、来て下さって嬉しいです! どこへ行きましょう? ルヴァ様はどうしたいですか?」
「今日はあなたとお部屋でお話していたいですねぇ」
ほんの一瞬だけアンジェリークの視線が狼狽えた。
「え、あ……はい、どうぞ入ってください。今お茶淹れますから座っててくださいね」
「ありがとう、お気遣いなく。あなたの部屋でお話しするのは、そういえば初めてですねー」
部屋もまた可愛らしいなどと思いつつ、視界の隅で例の棚をこっそりと探す。
部屋の一角に前面がカフェカーテンで隠されている棚らしきものがあった。
まどろっこしいやりとりをしても不毛だ、ここは単刀直入にいこうと決めて口を開く。
「そういえばですね、あなたが原石を集めていると聞いたのですけれど」
アンジェリークの手が滑り、ガチャン、とティーカップが音を立てた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「あ、ごめんなさい、大丈夫です。……ルヴァ様、誰からそれを聞きました?」
一応笑顔を浮かべてはいるものの、かなり引きつっていた。
「あーいえいえ、通りすがりにちょっと耳にしただけです。いえね、私も鉱石なんかが好きなので、あなたもそうだったらいいなあ、と思いまして」
貸して下さい、とアンジェリークの代わりにお茶を淹れた。
「……集めて、ます」
耳まで赤く染めて、小さな声でアンジェリークは呟いた。
「本当ですかー。あのー、もし良かったら見せていただけませんか」
アンジェリークとの共通の話題を見つけ、思わずルヴァの顔が綻ぶ。
「……いいですけど、そんなたいしたものじゃないですよ」
アンジェリークはそう言って、棚のカフェカーテンをさっと引いた。
そこには小ぶりながらも上質なクラスターと呼ばれる群晶やポイントと呼ばれる単結晶などが所狭しと並べられていた。確かにこの部屋の中で違和感を醸し出すくらいの迫力だ。
「ああ、これはレムリアンシードですね。こっちはレッドファントムですかー。あああこっちにはレインボーパイライトにヘミモルファイトがっ。こちらはブルーアンバー、天青石……」
本来の興味の対象は鉱石のほうだったが、関連する知識として知っているものが目の前にあるせいか、夢中になって並べられた数々を眺めているとじわじわと喜びが湧き上がってくるのを感じた。
「アンジェリーク、どうして今まで話してくれなかったんですか? あなたと石の話までできるなんて、嬉しいですよー」
石を眺めながら少し興奮気味にまくし立てるルヴァを、アンジェリークは少し後ろからじっと見つめていた。
「私の私邸にもね、原石が色々あるんです。今度見に来てみませんかー?」
ルヴァがくるりと振り返った瞬間、彼女の目が潤み言葉に詰まっている様子を見て、大いに慌てた。
「ど、どうしたんですか!? あの、えっと、変な意味じゃないですよ! すみません、そういうつもりじゃ……」
いや今までだって人気のないところで逢ったりしていたし、やましい意味なんてないけれど、いきなり私邸はまずかったでしょうか……と心の中で延々と考えた辺りで、アンジェリークの表情がいつもの笑顔に戻った。
「ごめんなさい、何でもないんです。今度ルヴァ様のコレクション、見せてくださいね」
「特に興味がなかったらいいんです、無理にとは言いませんから。なんなら幾つか執務室へ持って来ましょうか」
そうだ、そのほうがアンジェリークも気兼ねなく見てくれそうだと思ったが、即座に否定された。
「それはダメですよぅ。動かして欠けたりしちゃったら勿体無いですよ、日光に当てないほうがいいものも多いですし」
アンジェリークはそう言って、すっかり温くなってしまったお茶を淹れ直してくれた。