神の真意を汲む化石
日の曜日になり、ルヴァはアンジェリークを連れて私邸へ戻ってきていた。
「資料も兼ねて色々なものを集めているんですけど、鉱石の類もそうでしてね。ああ、足元に気をつけて」
あまりにも多すぎて片付け切れない本がそこかしこに積まれているため、二人はそれらを避けながら歩いた。
「わ……この写真、凄いですね」
アンジェリークが壁に掛かった大判の写真に目を留めた。
そこに映っている人と比較してもかなり巨大な水晶のポイントのようなものが縦横無尽に広がっている。
「それはある辺境の惑星で撮影されたものなんですが、通称クリスタルの洞窟と呼ぶそうですよ」
「へえー。じゃあこれって全部クリスタルなんですか?」
「いいえ。とても綺麗ですが石膏の中でも無色透明な水和結晶、透石膏です。月の女神セレーネが語源の……」
「セレナイト、ですか?」
間髪を容れずに正解が飛んでくる。
「ご名答。いやーさすがですねえ、あなたは水晶がお好きなんですか? 群晶もたくさん持っていましたものねー」
「んー、なんか綺麗だなって思ったものを集めていたら、水晶が多くなっちゃいました」
話しながら部屋の奥へと進む。そこには古びたオーク棚に整然と石が並べられていた。
「水晶は種類が幅広いですから集め甲斐があるでしょうねぇ。それなら……ええと、こういうのはお好きですか?」
棚にずらりと並んだ中から、ルヴァの頭より少し大きいくらいのカテドラル水晶を取り出した。
「……カ……ッ」
大きな目をまん丸に見開いて、アンジェリークが絶句している。
「カテドラル水晶じゃないですか! 何なんですかこの大きさと透明度! あり得ません!」
「やっぱりご存知でしたかー。これなんかは特に大聖堂みたいな形で綺麗でしょう。こんな大きさのものが産出される星はそれ程なくてですね、どの星からいつ出てきたか等、ずっと記録しているんですよ」
ぽんとアンジェリークに手渡すと、こわごわと受け止めて眺めている。
「こんなの写真や本でしか見たことないです……すごーい」
うっとりと水晶を覗き込んではため息をつく彼女を、ルヴァはただ嬉しそうに眺めていた。
「では質問です。この水晶は、何のカテドラルでしょう? 一度で当てたらこれを差し上げますよー」
ルヴァとしては研究材料として集めていたため、写真に撮り記録を残してしまえば特に用のないものだったが、アンジェリークとしては宇宙史上で貴重な品を、そのまま受け取るわけにはいかなかった。
「えええええ!? いっ、いやいやいやいや、そういうのダメですって!」
「どうしてですか? 私にはもう必要のないものですし、あなたにあげちゃっても特に問題はないのですが……」
(そういう問題じゃなくて! こんなぽっと出の小娘にほいと渡しちゃだめでしょうルヴァ様!!)
などと言葉に出すわけにはいかないので心の中で叫びつつ、苦し紛れの言い訳を口にした。
「……おっ、置き場所! そう、置き場所がなくてっ」
「そうですかー。それは残念です」
少ししょんぼりと項垂れたルヴァに、慌てて言葉を繋いだ。
「あっあのっ! その水晶は受け取れませんが、当ててみます! えっと……たぶんシトリン、ですよね」
驚いた表情から徐々にルヴァが微笑むのを見て、アンジェリークは胸を撫で下ろした。
「お見事、正解です。そういえば……先日あなたのコレクションをざっと見た感じ、シトリンはなかった気がしたのですが……もしかしてあんまり好きではない?」
「え? いいえ、好きですよ。小さめのタンブルを幾つか持っているんですけど、普段は箱に入れているのであの日はお見せしてなかったですね」
その後もお茶を飲みながら話が弾み、一日があっという間に過ぎていく。
「ああ、もうこんな時間に。長々と引き留めてしまってすみません。あなたといると楽しくって、つい時間を忘れてしまいますねえ」
「わたしもすっごく楽しかったです!」
「またゆっくりお話しましょうね。いま帰りの馬車を用意しますから、ちょっと待っていてください」
アンジェリークを乗せた馬車を見送った後、ルヴァはあることを思いついた。