神の真意を汲む化石
翌日、やはり寝付けないまま朝を迎えたアンジェリークは再び闇の守護聖のもとを訪れていた。
「こんにちは、クラヴィス様」
「来たか……。まだ眠れぬか?」
「はい……。なんだか夜中じゅう心の中がざわざわして、ずっと落ち着かない感じで」
「そうか……やはり対策を取らねばならんな……」
一つため息をついて、クラヴィスは卓上で指を組んだ。
「今までおまえを騒々しい娘だと思っていたが、どうやらそれはあれらの声も混じっていたようだ……。一つ聞くが、おまえが集めたものは全て表に出ているのか」
「あ、はい。標本箱に入れているものもありますけど、ほとんどは棚に並べてあります」
「では帰ったら、まずそれらを選別することだな。要らぬものはしまえ」
「え、それってどうすればいいんですか?」
「今のおまえなら手に取ればわかるだろう。石の種類に関係なく、嫌になるものはよけろ」
嫌な感じ、などというのはいまいち理解できないものの、とりあえず頷いた。やってみて分からなければまた聞きに来ればいいのだ。
「えっと、じゃあ必要かなって思えるものだけを表に出しておいて、あとは箱に入れておけばいいんですか?」
クラヴィスが静かに頷く。
「そうだ……今のままでは『それ』のせいでゴチャゴチャと煩くてかなわんぞ……」
そう言われてアンジェリークはペンダントを引っ張り出してみた。
「何かお喋りが聞こえるんですか?」
「はっきりと喋っているわけではない……『それ』を通して色々な音で伝えてくるが、意味はわかる……」
チェーンを持ち上げてシトリンを耳に当ててみたが、音など何も聞こえない。
小首をかしげたアンジェリークを、クラヴィスは面白そうに眺めた。
「……あれらは口々におまえを慰めているつもりなのだ……そしておまえを泣かせたと『それ』を責めている」
保管室で数多あるカテドラルの中から何となくシトリンを選んでいたことを、ルヴァは内心少し不思議に思っていた。
そしてその意味を調べて合点がいった。
シトリンは太陽を象徴する石で、生命力に満ち溢れた明るいエネルギーを持つ。
いつだって私に明るく希望をもたらしてくれる、アンジェリークのようだと……そう思った。
だが彼女にペンダントを贈ってから来訪が途絶えたという事実は、ルヴァの心に重く圧し掛かっていた。
こちらから逢いに行ってみようかとも思ったが、途絶えたタイミングのせいで二の足を踏んでいた。
所用で執務室から出ようとしたそのとき、アンジェリークの声が微かに聞こえた気がして慌てて扉を開いてみると、少し離れた先にぺこりとお辞儀をしているアンジェリークの姿が見えた。
(あれは……クラヴィスの執務室……)
……弾けるような笑顔だった。
それを見た瞬間、ずきりと胸が痛む。
結局一言も声をかけることができないまま、ルヴァは去っていくアンジェリークの背をただ見つめていた。
もしかするとやっぱり迷惑だったのかもしれない。
何か面白い話一つできるわけでもなし、これまで退屈な自分に表向き合わせてくれただけでも幸運ではないか。
群晶を集めていた彼女と水晶球を大切にしているクラヴィス。話が合うのは、考えてみればとても自然なことのように思える。……鉱石としての興味しかない自分などよりも、ずっと。
そんな後ろ向きな考えばかりが頭の中をぐるぐると駆け巡って、どうしようもなく気分が落ち込んだ。