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こらぼでほすと 七十数年後の話

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 ティエリアも刹那も、大きなミッションをクリアーしてからは、主要スタッフからは外れている。好きに時間を使える立場になった。緊急の場合のみ、本格的に復帰するが、それも、最近ではなくなっている。
「じゃあ、帰りも一緒して、寺に戻ればいいさ。たまには、俺に付き合えよ。」
「そうさせてもらうつもりだ。なんなら、アイルランド経由でもいいぞ、ニール。」
「そうだな。」
 プラントまでの道中で、そんなことを話していた。ただ、帰りが、いつになるのか、それはまだわからない。


 シャトル便の宇宙港には出迎えが待っていた。かなり郊外のほうへクルマで案内された。大きな建物の玄関には、初老の人物が待っていた。
「お久しぶり、ママ。」
「よおう、キラ。元気そうで、何よりだ。」
 キラはコーディネーターの中でも、かなり特殊なコーディネートをされていて老成するのが遅い。本来なら老人になっているはずだが、まだ見た目には五十代前半の若さだ。
「本当は地球へ降下させてあげたかったんだけどね。最後の仕事が残ってるから・・・・拉致させてもらった。」
「それは以前に聞いてた。うちの亭主と悟空は本山に出向いてるから、じっくり付き合えるよ。」
「うん、そうしてもらえると有り難い。本人は会わないままに、と、希望したんだけど、僕が勝手に拉致することにした。降りられないんだから、好きにすればいいと思ったんだ。」
「そうだな。俺も、それでいいと思う。・・・・案内してくれ、キラ。」
 キラは表立ってプラントで活動していたわけではないから、好きにできるのだが、表看板を背負っていたほうは、そうもいかない。最後まで、その姿は必要だ。偉大な指導者の終焉という舞台が、最後に待っている。部屋に入る前に現状は説明してくれた。眠っては起きて、また眠るという繰り返しで、ゆっくりと終焉に向かっているところだという。話ができる時間がとれる間に、ニールを側に呼びたかったとのことだ。


 部屋は静かなものだ。窓は開け放たれていて涼やかな風がカーテンを揺らしている。すっかり見違えるほどの姿になっているが、ニールにとっては可愛い娘のままだ。昔、トダカが、「いくつになっても娘は可愛いものなんだ。」 と、言っていたが、ニールも、今は、それを実感する。どんな姿であろうとも、彼女はニールの娘で、やはり寝顔も可愛いと思う。
 物音で気付いたのか、ゆっくりと目が開いた。そして、ニールの姿に目を留めて、「あらあら。」 と、微笑んだ。
「・・・・・酷いですわ。私くしは、こんなおばあちゃんになった姿など・・・お見せしたくありませんでした。」
「水臭いことを言いなさんな。・・・・これから、ずっと側に居るよ? 遅くなって、ごめんな? 」
「・・・いいえ・・・いいえ・・・もう一度・・・お会いしたかったのは私です。・・・・ママ、私、あなたを泣かせたくなかったのに・・・・」
「はははは・・・泣かないよ。おまえさんと懐かしいことでも話して、少し庭も散歩しようぜ? 俺の服のコーディネートも頼みたいな。」
「・・・まあ・・・それは嬉しいです・・・あなたを着飾らせて・・・目の保養をさせていただきましょう。」
「くくくく・・・・そうだ、その調子だ。」
「私のママは、いつまでも若くて綺麗で嬉しい・・・・あなたがいてくれるだけで・・・心が若返ります・・・・」
「ああ、そうだ。昔みたく、いろいろと俺にいちゃもんでもつけろ。・・・・そうだ、猫の話を聞かせてやるからな。うちの猫、甘えん坊でな。すごく可愛いんだ。」
「うふふふ・・・ライルのことですね。知っておりますよ? 歩くのが嫌いで、いつもママがだっこしているとか? とうとう、ダメ人間製造機からダメ動物製造機に進化なさいましたのねぇ。」
「いいんだよ。あれは、あれで可愛いんだからさ。」
「・・・・ライルの世話は? 」
「八戒さんに預けてきた。あいつは、誰かがいれば満足だから、俺でなくても大丈夫だ。ちょっとは歩くようになるかもしれないしなあ。」
「おほほほほ・・・・そうですね。頼みの綱のママがいなければ諦めて歩くかもしれません。・・・今、到着なさったんですか? 」
「ああ、そうだ。」
「・・・まあ、これは失礼を・・・お茶の手配をしていただかないと・・・お腹は空いてませんか? 今、何時でしょう。」
 彼女の少し顔を上げて周囲を確認する仕草で、離れていたキラとティエリアも近寄った。
「今は夕方だよ。もうすぐ夜になる。」
「世話になる。」
「・・・キラ・・・みなさまに、お茶をお願いします・・・・ママにはダージリンのストレートを・・・ティエリアはミルクティーでしたね? それから、キラ、私の頼みは却下されたのですね? 」
 ちょっと恨めしそうに睨む相手に、キラは笑顔で、「うんっっ。」 と、力強く返事した。
「きみの深層心理の願いを叶えることにしたんだ。そのほうが、きみも喜ぶだろうと思ってね。・・・・僕はやりたいことをやることにしている。それは知っているでしょ? だから、僕はきみとママを逢わせたかったから、そうしただけだ。文句があるなら、ちゃんと拝聴させてもらうけど? 」
 笑顔で、そう言われると彼女も笑い出す。本当のところは逢いたかったのだ。最後になるかもしれない、この時に、ママに逢いたいとは思っていた。ただ、ニールが悲しむであろうから逢わないで、と、決めていただけだ。
「来られた方を無碍にお返しするわけにはまいりません。その代わり、キラは私の手足です。・・・まず、お茶の用意を。」
「承知しました、お姫様。」
 恭しくお辞儀してキラは離れて内線で連絡している。そして、ティエリアの挨拶に、「少しママをお借りしますね? ティエリア。あなたも、少しのんびり休暇を楽しんでください。」 と、返す。ぼんやりとしていた彼女は、ニールの出現で気持ちが戻ったらしい。それを眺めて、キラは微笑む。ずっと仕事をやり遂げていた彼女に贈り物を用意した甲斐があった。あのまま、ぼんやりと終焉に向かわせるなんて、キラもイヤだった。最後まで、華やかな気分で眠れることが、キラの手向けだ。
「・・・キラ・・・本当に・・・あなたは・・・こんな・・・化粧もしていない姿でお会いするなんて・・・」
「おまえな、俺と一緒の時は、すっぴんだっただろ? 今更、それを言うか? 」
「いいえ、今だから申し上げます。綺麗な娘でお会いしたいのが、娘の意見ですわ。」
「はいはい、それじゃあ、お茶したら化粧でもなんでもしてくださいや。ベッド起こすか? 」
「そうですね。少し起こしてください。・・・ああ、キラ。 ママの衣装を選ばなければなりません。携帯端末を貸してください。」 今までの静けさは、どこへやらな状態で、部屋は賑やかなことになった。お茶が運ばれて、携帯端末を手にした彼女は、生き生きとママに衣装を見せている。いずれ眠るとしても、昔のような騒ぎの中が、彼女には相応しい。


 小一時間、ベッドの側で茶話会をしていたが、件のお姫様が眠ってしまった。それを機に、一端、三人は部屋を出て、別の部屋に入る。