黄金の太陽THE LEGEND OF SOL26
突然響いた笑い声に、ガルシア達は驚愕する。
「な、なに……!?」
「そんなバカな!?」
死体と化したはずのデュラハンが動きだし、そのままゆっくり、むくりと起き上がった。
「どうだ小僧、今の気分は?」
デュラハンはシンに向かって言う。
シンはある程度予測していたとはいえ、まさか本当に復活するとは思っていなかった。
「何故だ、何故貴様は蘇る!?」
ガルシアはシン以上に驚いていた。
「『ハートブレイク』で貴様の心臓は砕け散ったはずだ! それなのに、何故!?」
ガルシアは確かな手応えを感じていた。死神の力を使い、引き抜いたデュラハンの心臓を潰したはずだった。
「仕損じたというのか……? ならば今一度!」
ガルシアは再び魔術を発動しようとする。
「ふん!」
デュラハンはエナジーの衝撃波を放った。
「がっ!?」
衝撃波に手を打たれ、ガルシアは魔導書を落としてしまった。
「そう何度も食らわぬぞ? いくら再生できるとはいえ、再生するのはいささか面倒なのでな」
「再生、だと!?」
ガルシアは度重なる驚きに戦意を削がれてしまい、地に転がった魔導書を拾うこともできなかった。
「そうだ、我は自己再生ができるのだ。多少の時間はかかるが、完全にな!」
デュラハンの再生能力はまさに、常軌を逸していた。
「……やっと見えたぜ、オレが感じ取った奴の生命力の正体が……!」
シンの片方だけの天眼によって、その能力の全てが明かされる。
「デュラハン、信じられないが奴には、心臓が二つある……」
辺りは驚愕に包まれた。
「シン、それは本当ですか!?」
「そんな、バケモンじゃねえか!?」
「残念だが本当だ、ピカード、ジェラルド。オレには見えるんだ。二つの心臓を壊さない限り、デュラハンは永久に回復する……!」
デュラハンは大笑いした。
「フハハハ……! よもやそこまで見通せようとは。貴様のその眼を警戒していたが、やはりその眼だけでも潰しておくべきであったな。ばれてしまったのでは仕方がない、貴様の言う通り、我には心臓の他に生命力の源がある」
デュラハンによると、心臓が二つと言うのは少し語弊があるとの事だった。
正確には魔脈と呼ばれる、生物が持つ器官とは違う、デュラハンほどの大悪魔が持つ魔力物質であった。
この物質がデュラハンの体内に存在する限り、デュラハンの体は永続的に再生を続け、物質が破壊されない限りは自然死さえも訪れることはない。
更に悪いことがあった。
デュラハンを永久的に再生させ続ける物質は、エナジーや魔術の類の影響を一切受けることはなく、破壊するにはデュラハンの強固な鎧、体を打ち砕き、直に攻撃するより他なかった。
「フハハハ……! 少し喋り過ぎてしまったかな? しかし、これで分かったことだろう。貴様らに我を倒す術はない! 諦めて死の時を待つがよいわ!」
デュラハンは笑う。
デュラハンがここまで仔細を語ったのは、決して敗れる事はないという自信の表れであった。
「ガルシア、お前の力で何とかできないのか!? 心臓を潰せるんだったら、奴のもう一つのほうの心臓を……」
「無理だ……」
ジェラルドの言葉はこの一言で一蹴されてしまった。
「何でだ! やってみないことには分からないだろ!?」
「違う、諦めているわけではないが、『ハートブレイク』はあくまで心臓を潰す術、それ以外は無理なんだ」
タナトスより授かっている死神の力の奥義、『ハートブレイク』はその名の通り心臓を潰すことによって相手を一撃のもと、死に至らしめる術である。
心臓以外を破壊した所で相手が死ぬかどうか、というところまでは考えられていないようで、それ故に臓器を破壊するための術としてできていなかったのだ。
例えデュラハンが持つ魔脈という器官が、心臓と同じくらい重要なものだったとしても、完全な心臓でない限り、術が適応される事はないのだった。
一撃必殺の魔術を無効果され、意気消沈するガルシアの横から突然、デュラハンに向けて炎が放たれた。
「兄さん、何を弱気になっているのよ!?」
「ぬおっ!?」
不意の攻撃に、デュラハンは後退する。
「ジャスミン!?」
全身に炎を纏ったジャスミンが、ガルシアの真横に立った。
「心臓を潰しても回復されるんなら、回復できないくらいのダメージを与えてやればいいのよ!」
ジャスミンは炎の塊を手の中に作り、デュラハンへと放った。いかにデュラハンの鎧が頑強であり、普通の鋼鉄でなかろうと、鉄である以上熱には弱かった。
『爆浸の術!』
シンも電気を発火させ、デュラハンの周辺を爆発させる。
「ジャスミンの言う通りだぜ、ガルシア。奴が言っていることが本当でも、奴にも弱点はある!」
シンの言うように、デュラハンは心臓さえも再生させてしまうような化け物であるが、不死身であっても決して無敵であるわけではなかった。
鎧は炎、デュラハン本体には風という弱点が存在し、それらの弱点を突けば十分なダメージは期待できる。
今もデュラハンは炎を嫌い、ガルシア達から少し距離をおいている。
「……そうだな、まだ諦めるには早いな。よし、奴の弱点を徹底的に突くぞ! ジャスミン、炎の渦を起こして奴の動きを止めてくれ!」
「お安いご用よ、兄さん!」
ジャスミンは螺旋に燃え上がる炎を作り出し、デュラハンに向けて放った。
「ぐぬうっ!? 小癪な……!」
デュラハンは炎に周囲を塞がれた。
「よし、更に追い討ちをかけるぞ! ジャスミン、俺と一緒に強力な炎で奴の鎧を熔かす、行くぞ!」
「任せて!」
ガルシアとジャスミンは、炎の渦に閉ざされたデュラハンを追撃すべく駆けた。
「すごいの行くわよ!」
「地獄の破壊炎……!」
デュラハンの上空に、赤い魔法陣が展開される。
『ハーデス・ブレイズ!』
「ヒート・ファイアピラー!」
ガルシアの黒魔術によって、巨大な火炎球がデュラハンに落下し、ジャスミンの力によってデュラハンの周りの炎は大きく炎上し、文字通り灼熱の柱と化した。
とてつもない炎の攻撃により、デュラハンはもはや灰になってもおかしくない状態であった。
「イワン、シン! 奴の鎧はもう耐えきれないはずだ! お前達の風のエナジーで奴に追い討ちをかけろ!」
ガルシアは二人に、更なる攻撃の指示をする。
「任せろ、行くぜイワン!」
「はいっ!」
シンとイワンは息を合わせて風のエナジーを発動する。
『風魔手裏剣・一点投!』
『スパークプラズマ!』
シンは風のエナジーを含ませた棒状の手裏剣をいくつも放ち、イワンは超高電圧の落雷を放出した。
灼熱の炎によって鎧は砕け、防御力の下がったところでの本体への風のエナジーの連続である。
さすがのデュラハンといえども無事であるはずがなかった。
「ぐ……」
ガルシア達の弱点を狙った総攻撃の後、立ち上った土煙から現れたのは、かなりの重傷を負ったデュラハンであった。
「効いている!」
しかし、デュラハンの再生能力は既に始まっている。
「くそっ、もう再生を……!」
「みんな、怯まないで! もう一度強力なの行くわよ!」
ジャスミンは更に攻めるべく、手に炎を出現させ、再びデュラハンを炎に閉じ込めようとする。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL26 作家名:綾田宗