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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL26

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 まだ呼吸が荒いものの、シンは命に別状のない様子だった。
「デュラハンは……?」
 死に物狂いで離脱を試みたシンに引き倒されたデュラハンであったが、大した事のない様子で起き上がっている。
 これしきの事で倒せる相手だとは誰も思っていなかったが、それでも僅かな落胆がガルシア達を支配する。
「我に地を転げさせるとは、面妖な……」
 デュラハンは何故、自分が転ばされたのか分からないでいた。
「エナジーの類を使用したわけではないようだが、一体……?」
「……こいつは護身技の一つで、小手返しって言うんだ」
 尚も不思議そうにしているデュラハンに、シンは告げる。
「お前には首がないが、それ以外の作りは人間と大差無いだろ。骨があって関節もある。関節を逆に曲げられればどうなるか、考えるまでもないだろう?」
 無理に反発すれば骨は折れてしまう。故にそのまま倒れてしまった方がダメージは少なくてすむ。
 しかし、デュラハンの強固な体に、投げ技で倒したところでダメージなどあるはずがなかった。
 更に言えば、関節を極めた所でそもそも、デュラハンの骨を折るに至ることができるかも怪しいことであった。不意打ちでなければ、この技がデュラハンに通用するはずもなかった事であろう。
「ふん、思い出したぞ。我がこの世界に舞い戻ったあの日、イリスも似たようなことをしてきたな。あの女神め、人間の技など身に付けておったか」
「イリスは十六年の間、リョウカという人間……オレの妹として鍛練してきた。使えるのは当然の事だ」
「ふん、だが言っておくぞ。そのような小細工はもう通用せんぞ。次こそ貴様を葬ってくれよう」
「……やっぱり、オレが狙われるか……」
 デュラハンの狙いはシンのようである。そしてシンにはそれが分かる様子であった。
「あの野郎、オレのこの眼の力を暴いているようだな……」
 シンが真っ先に狙われた理由、それはありとあらゆるものの本質を見抜き、対処の方法を即座に立てられる能力、天眼を警戒しての事だった。
「だが、狙いはいいがデュラハン、一足遅かったな。お前の弱点は見破った。それは……」
 不意に、デュラハンに向けて火炎弾が発射された。
「ジャスミン!?」
「シン、その続きは言わなくても平気よ。デュラハンはさっきの総攻撃で私の炎に反応していたわ。となればあいつの弱点は炎よ!」
 ジャスミンは更に火炎弾を作り出し、デュラハンに向けて放つ。
「狙いは悪くない……」
 ジャスミンの火炎弾はデュラハンの剣に弾き返されてしまう。
「そんな、確かにあいつ……!」
「小娘よ、一つ言っておくぞ。鋼鉄は火炎に弱い、それは不変の真理よ。だが、我自身が鋼鉄でできているわけではない」
 ジャスミンはデュラハンの言葉に困惑する。そこへシンが口を差し挟んだ。
「ずいぶんと余裕じゃないか、デュラハン。そんな弱点を露呈させるような事を口にするなんてな」
「ふん、その様子ではやはり、我の弱点を見抜いておるか……」
 デュラハンは見せしめのように殺さず、一瞬にしてシンの息の根を止めておくべきだったと少し後悔した。
「ああ、お前から感じられるエレメンタルの力、禍々しいが確かに分かる。お前のエレメンタルは地、だから風が弱点だ」
 完全に弱点を看破されており、デュラハンは押し黙った。
「それだけじゃないぜ、お前の弱点はな……」
 シンはもう一つデュラハンの弱点を見破っていた。
「さっきオレは、お前は首がない以外は人間と大して変わらないと言った。まさか忘れちゃいないだろう?」
「ふん、それがどうしたというのだ……」
 シンは確かに見ていたものがあった。
 それはあの時、デュラハンに掴み上げられながら、デュラハンの手の隙間より確かに垣間見る事ができた。
 デュラハンの鎧の首部分、そこから鎧の内部に中身がしっかりとあることが窺い知れた。
 人ならば脳に至るはずの頸骨があり、そこには脊髄が通っていた。つまりは、デュラハンと言えども血が通っているということになる。
 そして、血の流れがある者ならば必ず持っている臓器がある。
「ここまで言えば誰でも分かる。デュラハン、お前にもあるはずだ。心臓という、絶対的な弱点がな!」
 シンの見立てに、ガルシア達は驚かされた。まさかシンが、握り潰されて殺されんとしているところでそこまで見ていたとは思わなかったのだ。
「ふふふ……フハハハ……!」
 デュラハンは胸をそらして高笑いした。
「ハハハ……! よもやあの状況でそこまで見ていようとは……。ますますさっさと貴様を殺しておくべきであったわ!」
 致命的な弱点を暴かれながらも、デュラハンは妙なまでに余裕である。ここまで看破されていながら尚も、慌てる様子のないデュラハンに、シンは不信を抱いた。
 よほど自らの力に自信があるのか、それとも、シンの片眼だけの天眼では見破りきれていないものがあるのか。
「だが小僧、貴様の眼にも弱点があるようだぞ。よもやそれだけでこのデュラハンを討ち滅ぼせると思っておるのか?」
 心臓を貫かれることは絶対的な死を意味する。それなのにデュラハンはやはり余裕に満ちている。
――何か見落としているのか? それともただのハッタリか……?――
 シンは妙なまでのデュラハンの余裕ぶりに、次第に疑念を抱き始めた。もしやデュラハンには、首だけでなく心臓もないというのか。
『サモンクロス・タナトス!』
 ガルシアが死神の王、タナトスを召喚し、それと融合した。
「シン、よく奴の弱点を暴いてくれた。後は俺が奴の心臓を砕く。この死神の力でな!」
 ガルシアは一歩前に出て、魔導書ネクロノミコンをデュラハンに向けた。
「ほう、貴様のその本……」
「問答無用、デュラハン、覚悟!」
 ガルシアは最大級の死神の力を発動する。
「魂の破壊、『ハートブレイク』!」
 ガルシアの魔術が発動した瞬間、デュラハンの体内から黄色い塊が浮かび上がり、ガルシアの所へ吸い寄せられた。
「これが貴様の心臓だ、デュラハン」
 ガルシアは塊を手元に寄せ、軽く握りしめた。同時に、デュラハンの胸に激痛が走る。
「ぐおっ! き、貴様……!」
「是非もない、終わりだ!」
 ガルシアは塊を握り潰した。
「ごおおお……!」
 デュラハンは胸元を押さえ、そのまま倒れていった。
「手応えはあったぞ、ここまでだな……」
 ずいぶんとあっさり片が付いてしまったが、ガルシアは確かな手応えに、デュラハンを確実に仕留めたつもりでいた。
 しかし、シンは先ほどと同じく、違和感を感じていた。
 デュラハンは確かに倒れたが、まだ生気を感じられた。死した直後であれば、多少は生気が残るものであるが、それにしては生気が多い気がした。
 まさかとは思う。心臓を潰されて生きていられるはずがないと考え直すが、シンは妙な不安を拭いきれない。
「シン、どうしたのだ、そのような顔をして? 死神の力を食らってデュラハンは死んだ。これは確実だ」
「そう、だよな……考えすぎか……?」
 倒れているデュラハンは死体である。もう蘇るような事はない、そのはずである。いや、そうであって欲しかった。
「ふふふ……」
 しかし、その願いはむなしく、不意の笑いに裏切られてしまう