黄金の太陽THE LEGEND OF SOL26
カロンが啖呵を切ると、デュラハンはそれを嘲笑う。
「フハハ! 冥界の案内者も堕ちたものよな! よもや死を管理するはずの人間に付くとはな!」
「ふん、勘違いしてくれるなよ? わしの役目は全ての生ける者の死を管理することに他ならない。デュラハン、主とて例外ではない、必ず主にも死は訪れようぞ」
「我の魔脈の存在を忘れたか、カロン? 魔脈がある限り、我が死ぬことは絶対にない!」
「その魔脈とやらも壊れて主が死ぬといっておるのじゃ。主ガルシアと力を合わせれば、きっと主を滅ぼせる、わしはそう信じておる」
カロンはすうっ、とガルシアの横に立った。
「主よ、わしと融合するのじゃ。タナトスほど器用なことはできぬが、奴よりも強い呪力があることは自負しておる」
ガルシアは小さく笑う。
「ふっ、ならばその力、しっかりと利用させてもらう。行くぞ、魔との融合……!」
ガルシアとカロンの姿が重なりあう。
『サモンクロス・カロン!』
カロンがガルシアに吸い寄せられていき、ガルシアの姿が変化する。
純白のガウンはカロンの衣のように緋色となり、体全体を覆う大きさになり、マントを羽織っているかのようになった。
召喚魔と融合する間、体内へと吸収される魔導書は手元に残り、タナトスの時と同様に黒魔術の使用が可能であった。
ガルシアは、タナトスと融合した時とは比べ物にならないほどの強い魔力を感じていた。
「勝負はまだこれからだ、デュラハン!」
ガルシアは魔導書をデュラハンに向ける。
「手伝うぜ、ガルシア!」
勝負を決めようとするガルシアに、シンが飛んできた。
「シン、何をしている!? 大人しくしていないと、それだけ早く死霊に連れていかれるぞ!」
死霊の呼び声によって命を奪う黒魔術、『デスフォーチュン』には、灯火を点けられた者が、動き回るとそれだけ早く死に至る効果があった。
それはまるで、灯火は毒の一種であり、無理に動くことによって毒の回りが早くなるかのようだった。
「なぁに、平気だよ、ちょっとかすった程度だからな。それに、あいつが言っていたことを忘れたのか? あいつが再生できる魔脈とやらには、エナジーや魔術の類が効かないんだ」
「それは分かっているが……シン、まさかお前……?」
「そう、オレの出番ってわけだ。オレがデュラハンの魔脈を貫く!」
ガルシアの黒魔術を主とした攻撃方法では、デュラハンの体にダメージを与えられたとしても、魔脈という第二の心臓を破れない限り完全に滅することはできなかった。
ならば魔脈を潰すためには、物理的攻撃しか通用しないと思われるが、今のガルシアにはそのような攻撃手段がない。
そこでシンの力が活きるようになる。
シンの剣術には、相手の弱点部分を的確に突いて一撃で息の根を止める、という技術がある。加えてデュラハンの魔脈の位置は、シンの天眼にしか映っていなかった。
「すまない、頼りにさせてもらう」
黒魔術の効果を受け、体にかなりの負荷がかかる事は分かりながらも、ガルシアはシンを頼らざるを得なかった。
「大丈夫、オレを信じろ。さて、まずは奴の鎧から砕くとしようぜ!」
「ああ、一気に熔かしてやろう」
「ふん、何やら相談をしていたようだが、もう済んだのか? まあ、何を企んだところで我に通用するとは思えんがな!」
「はっ! そうやって余裕こいていられるのも今のうちだ、行くぜガルシア!」
ガルシアはシンの合図と共に、カロンの魔力によって強化された黒魔術を発動した。
「地獄の破壊炎、『ハーデス・ブレイズ』!」
デュラハンの上の空間に魔法陣が展開され、ヒランヤ型の中心部から巨大で超高熱の火炎弾が放出された。
「ぬうっ……!?」
デュラハンは避けられず、炎に巻かれる。
「まだまだいくぜ!」
シンはガルシアの出した炎を掻い潜り、デュラハンに接近した。
『爆浸の術!』
ガルシアの炎で熔けかけたデュラハンの鎧に、シンは更に爆発のエナジーで追い討ちをかけた。
しかし、炎に弱いデュラハンの鎧といえども、全て熔けていなかった。装甲の薄い部分は熱に熔けているものの、体の中心部、特にも胸部はほとんど影響を受けていない。
絶対的な火力の低さが十分な効果を与えてはいなかった。
「くそっ! やっぱり、ジャスミンくらいの炎の使い手じゃないと無理なのか!?」
デュラハンの魔脈は、心臓のある左胸部分のすぐ隣にあるのがシンには見えている。そしてその胸部には、必死の攻撃にも関わらずまるで影響がない。
シンは、ジャスミンがやられてしまっているこの状況を憎らしく思う。
「シン、そこをどくんだ!」
ガルシアが叫ぶ。
「一か八かだ、術を融合させて奴の鎧を消滅させる!」
「そんなことができるのか、ガルシア!?」
「分からん、だが、これに懸けるしかない! 鎧を消滅させたら、後は頼んだ!」
ガルシアの頭の中に声が聞こえる。
――主の考えは読んだぞい。なかなか大胆なことを考えよるのう?――
カロンの独特の嗄れた声である。
――お前の力を使えば容易いことだろう?――
ガルシアは口にせず、融合しているカロンと思念によって会話する。
――ひょひょ、残念じゃが、主の思っている通りの事はできん。あれは呪詛に耐性がなければ打ち消してしまうのでの――
カロンにガルシアの思考が読めるように、ガルシアもカロンの思考が読めていた。
――混ぜる事は無理でも、間をおかずに繰り出せば俺の思うに近いことができるようだな――
――主よ、本気でそのような真似をするつもりか? 相当な精神力、いや、生命力も消費することとなるぞ?――
ガルシアは、カロンの言葉に答えるというよりも、自分自身に言い聞かせるかのように叫びを上げた。
「どのみち、全力以上の力で当たらなければ、あの悪魔は倒せん! 出し惜しみはしない!」
ガルシアはエナジーを集中させ、黒魔術の力を練り上げる。
大量のエナジーが魔力へ転換され、ガルシアから漆黒のオーラが立ち上ぼり始めた。
「行くぞ……!」
ガルシアは練り上げた魔力を炎にして打ち出した。
「地獄の破壊炎、『ハーデス・ブレイズ』!」
通常、空に展開される魔法陣が今は、ガルシアの目の前に広がり、ヒランヤの中心から炎が噴出された。
炎はデュラハンを巻き、纏う頑強な鎧はついに炎の熱に悲鳴をあげ始めた。
「ぐぬっ! 猪口才な……!」
デュラハンの鎧は熔解を始めていたが、まだ全てを大破するところまでは至らない。
そこへガルシアの二の太刀がデュラハンに更なる追い討ちをかけた。
「魔力、最大充填!」
ガルシアの全力を示すかのように、背後から立ち上るオーラがメラメラと燃え盛る火炎のようになる。
「呪詛の力で全てを吹き飛ばし、消し去る!」
ガルシアは全ての力を解き放った。
「冥府の業風、『カース・サイクロン』!」
ガルシアは冥界の案内者たる死神の長、カロンの最大にして最強の能力を発動した。
空間に漆黒の竜巻が上がり、吸い込まれたものを文字通り消滅させていく。
ガルシアとシンの炎によって熔解し、ただの鉄屑となったデュラハンの鎧は、竜巻へと吸い込まれ、塵も残さず消えていった。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL26 作家名:綾田宗