黄金の太陽THE LEGEND OF SOL26
さすがに、デュラハンを消滅させるような事はできないまでも、呪詛の竜巻は風のエレメンタルであり、デュラハンの弱点を突いていた。
「ぐおおおお……!」
デュラハンは苦しみ、唸り声を上げる。そして呪詛の竜巻が止んだ瞬間、鎧を砕かれたデュラハンの上半身の裸体が露となっていた。
デュラハンの魔脈を守れるものは今、何もない。
「行け、後は頼んだ、シン!」
ガルシアが叫ぶが早いか、シンは既に好機を逃さずにデュラハンへと接近していた。
「くらいやがれ!」
シンは自身の眼に映るデュラハンの魔脈、胸部の右側を白銀の刃で貫き通した。
「おおおっ……!?」
デュラハンはどす黒い血を噴き出し、地面に倒れていった。
大量の返り血を浴びながら、シンは確かな手応えを感じていた。
「……今度こそ終わりだ、デュラハン!」
不意に、シンはものすごい耳鳴りを感じ、目眩で地面に膝をついた。
「うっ、ぐぐ……、ああ!」
突然の耳鳴りはとても、抗いがたいもので、シンは額を抑えながら首を激しく振って苦しんだ。
「大丈夫か、シン!?」
ガルシアは駆け寄ろうとした瞬間、シンの苦しみの原因が分かった。
デュラハンによってかけられた黒魔術、『デスフォーチュン』の効果を示す灯火が、今にも消えそうなほどに小さくなっていた。
無理をして動き回ったせいで魔術の効果が早く進み、シンは今まさに死霊の呼び声を聞いているところであった。
「シン、一瞬たりとも気を抜いてはいかんぞ! 苦しくても耐えろ! 死霊に魂を持っていかれないようにな!」
しかし、とガルシアは妙に思っていた。
術者であるデュラハンは倒れ、魔術もすぐに解除されるはずであった。
そのはずなのに、魔術の効果は続き、死霊がシンの魂を持っていこうとしている。
「一体どうなって……いや、今はそのようなことを考えている場合ではないな……」
ガルシアはやむ無く、対処方法を取ることにした。
「死霊の誘い、『デスフォーチュン』!」
ガルシアは黒魔術を発動し、死霊への印をつける刃をシンに放った。
刃が突き刺さると、シンに、新たに灯火が点火した。その瞬間、シンを襲っていた死霊の呼び声が止んだ。
「……はっ! オレは一体……?」
「正気に戻ったか、ひとまず安心だ……」
「ガルシア、術を解いてくれたのか?」
「いや、違う……」
この方法は解呪の手段とはなり得なかった。
この方法は、デュラハンが遣わした死霊の管理をガルシアも負うようになり、シンに二重の魔術をかけることになっただけであった。
この手段を使ったために、シンへの呼び声は少しの間を置けるようになったが、解呪にはデュラハンかガルシアのどちらかの死が必要となってしまった。
「デュラハンが魔術の主体ではあるが、この手を使ったために、術の担い手が俺にも渡った。もしもデュラハンが死んでも術が解けないようならば、シン、迷わず俺を斬れ」
「何をバカなことを言っているんだ、ガルシア! デュラハンは魔脈を破られて死んだはず、今にオレの呪詛も消えるはずだ!」
「……そうか、ならば遠慮なくその五体を引き裂いてくれよう!」
突如、倒れていたデュラハンが起き上がり、ガルシアに向けて剣を振るった。
「くっ、クロスアウト!」
「ガルシア!?」
ガルシアとデュラハンの間に立ったもの、それはデュラハンの剣によって、鋼鉄をも超える肉体を砕かれていた。
「ふん、下級悪魔ごときが邪魔をしおって……!」
ガルシアは剣を防ぐべく、とっさにデーモンを召喚していた。しかし、デーモンの鋼のごとき肉体も、デュラハンの前には無力であり、縦に真っ二つに両断されていた。
縦に割れたデーモンは、霧散していった。同時にガルシアの魔導書、デーモンのページが空白となってしまう。
「くそ……!」
『烈風の術!』
シンは弱点の露となったデュラハンに攻撃を加えた。
「何をしている、下がるぞ、ガルシア!」
シンはガルシアの腕を掴み、デュラハンから距離を離した。
「ちっ、仕損じたか……!」
デュラハンはガルシア達の方を向く。体の再生は既に始まっており、その再生力はやはり鎧までも修復していた。
「何故だ、何故お前は生きている!? お前の魔脈は確実にオレが潰したはずだ!」
シンは錯乱している様子であったが、はっ、とすぐに確信にたどり着く。
魔脈を潰す事ばかりに集中してしまい、すっかりと頭から外れてしまっていた。
デュラハンも生物体である限り、必ず持っており、そして生命線としての働きをしている物がある。
シンが至った答え、それはこうであった。
「魔脈と心臓、どちらも潰せなきゃ、デュラハンは倒せない……!」
魔脈にはエナジーの類は通用することはなく、また、デュラハンの心臓は物理的な影響では壊れない。
「フハハ! 勘の良い奴よ、シン。だが、お前はまだ思い違いをしていることがあるぞ?」
「なにっ!?」
「答えは、貴様が浴びたその黒い液体だ」
シンはデュラハンの魔脈を貫いた時、大量の返り血を浴びていた。しかし、これはその実、完全な血ではなかった。
傍らで聞いているガルシアにはいまいち理解が及ばなかったが、あらゆる物の真理を見抜く眼を持つシンには、自身が浴びたものの正体が分かっていた。
「まさか……?」
手に付着する黒い液体を見ると、恐ろしい考えがシンの頭をよぎった。
「シン、一体どうしたのだ?」
シンは静かに答える。
「これは、魔脈の力を含んだ血だ……」
デュラハンの魔脈は心臓とほぼ繋がるように存在していた。
それはつまり、魔脈から出される、再生能力を持つ物質が心臓を通して血流と共に全身に流れることを意味していた。
更に、魔脈の再生力を有した血流が再び心臓へと流れることで、魔脈自体の再生さえも可能としていた。
「……デュラハンにこの血が流れている限り、心臓を潰そうが、魔脈を貫こうが無意味だ。やつを完全に殺すなら、間を置かずに魔脈も心臓も壊さなきゃならない」
しかし、魔脈の血流が体内に残っている限り、それから体を再生される可能性もある。
デュラハンを完全に滅するためには、再生が追い付かないほどのダメージを与えた上で、同時に心臓、そして魔脈を破壊する必要があった。
「……くそっ、デュラハン、なんてしぶとい奴なんだ!」
シンは事の子細を語り、自らの言葉を恨めしくも思った。
「シン、まさか諦めるつもりじゃないだろうな?」
「ガルシア? 何言ってやがる、そんなわけないだろ!」
「だったら、俺達にできることは一つ。お前が言っていたように、デュラハンの魔脈を破り、更に心臓を潰す、それだけだ」
事は非常に単純であることは明白だったが、その単純なことを成すのにデュラハンという障壁はあまりにも大きかった。
「魔との融合、『サモンクロス・カロン』!」
カロンと融合することでガルシアのガウンが緋色となり、背中にはカロンの爪のような骨の翼が出現する。
「ガルシア、何をするつもりだ!?」
「最大の力でカロンの魔術を使う! まだ鎧までは再生しきっていない、この隙に強力な一撃を見舞う。その後はシン、もう一度魔脈を潰せ! それから間を置かず俺が心臓を破る!」
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL26 作家名:綾田宗