黄金の太陽THE LEGEND OF SOL26
「主ガルシアよ、何故そこまでしてデュラハンに歯向かうのじゃ? わしはもう消されても構わん、それ以上の抵抗は……」
「黙れ、貴様のためなどではない!」
ガルシアは怒鳴った。
「俺の目的は、ロビンの、いやそれだけではない、デュラハンのせいで死した者達の仇を討つことだ!」
ガルシアは魔導書を地に投げ捨てるように落とし、両手でエクスカリバーを握りしめた。
「デュラハン、覚悟!」
ガルシアがデュラハンに斬りかかろうとした瞬間、部屋の扉が乱暴に開け放たれた。同時に三つの影が部屋を駆け抜ける。
不意に、ガルシアの横を風が通り抜けた。
「デュラハンを殺すのは……!」
双剣による二本の剣閃が煌めく。デュラハンはとっさに防御を試みる。
「……この私、復讐の女神、メガエラよ!」
メガエラとデュラハンの刃が重なりあい、ぎちぎちと耳障りな音を立てる。
「メガエラ、来てくれたのか!?」
ガルシアはふと、後ろに視線をやった。
そこには、鰭のある腕を持ち、全体的に蒼い姿をしたアズール、剣を片手に騎士服を身に纏うユピターの二人がいた。
「アズール、ユピターも無事だったのか!?」
「ガルシア、感傷に浸るのは後にしてちょうだい。さっさとカロンを本に戻して少し下がりなさい」
「あ、ああ、そうだな……」
ガルシアはエクスカリバーを鞘に納め、地に落としていた魔導書ネクロノミコンを拾い上げた。
「カロン、戻るんだ」
「承知したぞい」
カロンは魔導書の中に戻っていき、召喚術のページの挿し絵となる。
「出でよ、水の精霊カシス……」
アズールは水の精霊を召喚した。そしてその精霊の力を借り、清浄なる魔法を発動する。
「……その清らかなる流れによりて、あらゆる穢れを祓いたまえ!」
アズールから、噴水の水のように光が上空に湧き上がり、きらきらと輝く水滴のように、ガルシア達へと降り注いだ。
その瞬間、ピカードとイワンに取り憑いた悪霊は消え去り、シンにかかった死霊の呪いの効力もなくなった。
「う……く……はっ! ボクは今まで何をして……!?」
長い間激しい耳鳴りに苦しんでいた二人は、直前までの記憶が飛んでいた。
「僕も……確かジェラルドを回復しようとして……。そうだ、ジェラルド!」
ジェラルドは魂を刈り取っていくエナジーを受け、重傷を負っているはずだった。
「それやったら心配あらへんで」
アズールは後ろを振り返った。ジェラルドもそちらを見る。
「メアリィ殿、今が好機、マリアンヌ殿の力を放たれよ」
ユピターは言った。その体は肩口から腹にかけて、眼をそらしたくなるほどの傷を受けており、立っているどころか、生きていることも不思議なほどであった。
「ユピターさん!? 一体どうしたのですか、そのような傷!?」
メアリィが驚くのも無理はなかった。
驚くメアリィとは対称的に、ユピターは落ち着いて、軽く笑みまで浮かべて答える。
「なに、心配はない、応急処置なら済んでいる。メアリィ殿のエナジーを受ければ完全回復する。さあ、早く……!」
傷はやはりかなり深く、ユピターはいつまでも、余裕な顔をしていられなかった。
「わ、分かりましたわ!」
ユピターが苦痛で顔を歪めると、メアリィは急いでエナジーの発動の準備をする。
天界の騎士、ヒースより受け取った銀細工のペンダントを握りしめ、仲間達への思いを一心に祈る。
そして思いの力が最も充実した瞬間、メアリィは詠唱した。
『グレイスフル・ウィッシュ!』
メアリィから光の柱が立ち、上空で弾けると、辺りにきらきら光る霧雨のように、癒しの力が一同を包み込んだ。
「力がみなぎる……!」
「エナジーも回復していくわ」
「なんと心地よい、この傷も癒えていく……」
癒しの霧を受けた者達は皆一様に、自らの心身共に回復していくのを感じた。
不意の一撃を受けてしまったジェラルド。体力を吸収されたジャスミン。悪霊に取り憑かれて精神力をすり減らされたイワンとピカード。
そして度重なる黒魔術の使用により、エナジーを使い切ってしまったガルシア
もその力を回復させた。
刃をぶつけ合い、メガエラとデュラハンは拮抗していた。
メガエラは後ろにいる者達の回復を確認すると、双剣を引き、後方に回転しながらデュラハンに蹴りを放ち、距離を取った。
「ふん、デュラハン、どうやらあなたもここまでのようね」
メガエラは状況を好機と読み、ニヤリと笑った。
天界での大戦でもデュラハンと戦ったメガエラは、デュラハンの弱点を知っていた。
あの時メガエラに弱点を突く術は炎しかなかったが、今は風を操れる仲間がいる。
「あの時の借り、しっかりと返させてもらうわよ!」
メガエラは双剣の片方の切っ先をデュラハンに向けた。
「せや、十六年前の恨み、忘れてへんで? 覚悟しいや!」
アズールはすたすたと前に出て、メガエラの横に立った。
「デュラハン!」
大きな傷を治癒したユピターも前線に立った。
「よくも我が親友、ヒースを貶めてくれた。ヒース、そして散っていった聖騎士団員の無念、団長として、このユピターが晴らす!」
天界の女神と神子も合流し、戦いの形勢は完全にガルシア達に向いていた。
「ふふふ……フハハハ……」
しかし、圧倒的不利な状況下に置かれたと思われたデュラハンからは、不敵な笑い声が上がるのだった。
「ふん、死期を悟って気でも触れたのかしら?」
メガエラは笑い返すが、仲間達の中にはデュラハンの笑いに疑念を抱いていた。
「待て、何か様子がおかしくないか?」
不穏な雰囲気を感じて言うのはシンである。
「心配しすぎよ、どうせハッタリに決まって……」
メガエラは言うが、デュラハンの様子は少し異常に思えてきた。
「フハハ! ハハハハ……!」
デュラハンは相も変わらず、高笑いを続けている。次第にメガエラにも妙な胸騒ぎが起きた。
「ハハハ……! 笑いすぎたわ! まさか貴様ら本気でこの大悪魔デュラハンを相手に勝てると思っておるのか? だとすれば、滑稽、そしてどこまでもおめでたい奴らよ!」
デュラハンは不意に、何かの術を発動した。次の瞬間、メガエラ達は驚愕に包まれる。
「そんな……!?」
「あいつらは!?」
突如として空間に出現したのは、このアネモス神殿の入り口付近にて待ち構えていた刺客であった。
それぞれスターマジシャン、ビーストサマナー、デモンズセンチネルという、かつてデュラハンの配下にして、ガルシア達に敗れた者だった。
「バカな、あの狂戦士、私が確かに……!」
「倒したつもりでいたのか? フハハ! こやつらには、個々に命があるわけではない。全て我の一部を使い、操り人形として使っていただけだ」
デュラハンはふと、スターマジシャンの傀儡に歩み寄ると、背中から手を貫かせた。どす黒い血飛沫を上げ、傀儡は崩れ去る。
デュラハンは戦慄するガルシア達に、手の上で脈動する物体を見せ付けた。
「バカな、あれは!?」
「ふん、察しがいいな、ガルシアよ。そう、この我の魔脈を使って傀儡どもを作ったのだ!」
デュラハンは動く魔脈を、自身の胸にあてがい、体内へと吸収した。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL26 作家名:綾田宗