黄金の太陽THE LEGEND OF SOL26
続けてデュラハンは、ビーストサマナー、デモンズセンチネルの傀儡の臓腑を抉り取り、魔脈を取り出して体内へと戻していった。
その光景は、非常に胸が悪くなるものだった。
「さて、全ての魔脈を回収した所でそろそろ本気を出させてもらおうか。貴様ら全員残さず、地獄以上の苦しみ、恐怖を味わわせてくれようぞ!」
三つの魔脈を取り戻したデュラハンの体は、一回り大きくなっていた。
元々人の体よりも大きかったデュラハンが更に巨大化し、纏っていた威圧感が数倍に膨れ上がっていた。
ガルシア達は、先に見せられた残酷な光景に続けて、圧倒的な威圧感を受けて蛇に睨まれた蛙のごとく、身動きが取れなくなっていた。
「元素の破壊……」
デュラハンはガルシア達に手を向け、魔術を発動しようとする。
「まずい! 何か来るぞ!?」
黒魔術の気配を感じたガルシアは叫ぶが、仲間達はやはり動くことができない。
『ジンヘルストーム!』
デュラハンの手から、四元素の輝きを持つ白い波動がガルシア達に押し寄せた。
波動は部屋中全てを包み込めるほどに広まり、ガルシア達はなす術なくデュラハンの波動に飲み込まれていった。
「うわああああ!」
ガルシア達の苦痛の悲鳴が木霊した。
やがて、デュラハンの放った波動は収まった。しかし、ガルシア達の外面にはダメージは見受けられない。
しかし、この魔術の恐ろしさは、波動そのもので対称の命を散らすことではなく、他にあった。
「な、に……これ……」
「力が……体に力が入ら、ない……」
ガルシア達を襲ったのは、かつてないほどの虚脱感であった。
立ち上がることはとてもできず、指の一本たりとも動かすこともできない。
脱力は体だけに止まらなかった。
「回復を……うっ、そんな……エナジーが……!」
メアリィは全員の体力の回復を試みるものの、体からエナジーが全て抜け出てしまったかのように、全く発動できそうになかった。
「フハハハ! 無駄だ無駄だ! この魔術を受けた者は、力もエナジーも、共に失われる。最早このデュラハンに勝てる道理はない。全ては終わるのだよ、フハハハ……!」
デュラハンは勝利を確信し、胸を反らせて高笑いを上げた。
デュラハンに抗い続けようとする者達は皆、なんとか立ち上がり、デュラハンに一矢報いようとするが、デュラハンの言う通り無駄な抵抗であった。
「ぐ、うう……!」
デュラハンの前に倒れるしかない者達の中に、ざっ、と地面を踏みしめながらも立ち上がる者がいた。
「ハハハ……ぬう?」
デュラハンの笑い声も一先ず止む。
立ち上がったのはガルシアであった。
ふらふらな状態となりながらも、地面をしっかり踏みしめ、震える手を抑えながらデュラハンへと対峙する。
「ほう、さすがはあのカロンをも使役する黒魔術師よ。あれを食らってまだ立ち上がれようとは……」
デュラハンは称賛するが、ガルシアは僅かな動きさえも、まともにできなかった。
「ふん、虫の息だな。まあ、無理もあるまい。『ジンヘルストーム』を受けてはたとえ強力な黒魔術師といえども力を失う」
ガルシアは魔導書を開き、デュラハンに向けた。
「フハハ! 何をするつもりかな? その体では下級の術すらも満足に使えぬであろう?」
デュラハンの言う通り、ガルシアにはもう、最下級の黒魔術を発動するエナジーも残ってはいなかった。
「……俺は」
「うん?」
「俺は、負けるわけにはいかないのだ……! 世界のため、ロビンのためにも……! たとえこの身が朽ちようとも、デュラハン、貴様を討たなくてはならん!」
ガルシアは力を振り絞った。体に微かに残るエナジーを集め、デュラハンに魔術を放とうと試みる。
しかし、どんなにエナジーを集中させようとも、初級レベルのエナジーを放てるほどしかエナジーが貯まらない。
「くそ……!」
ガルシアは悔しさに歯噛みをした。
「フハハ! もう諦めよ、ガルシア、その他人間、天界の者共よ! 貴様らがどう足掻こうが我には最早届かぬ! さあ、最期の時をくれてやる、覚悟せよ!」
デュラハンは魔力を高める。
「元素充填、『チャージ・エレメント』!」
デュラハンは黒魔術の力を集め、例の魔術を発動しようとする。
「よ、止せ! 止めるんだ……!」
ガルシアは無駄なことだと分かってはいたが、デュラハンを止めようとした。
「ハハハ、この期に及んで命乞いか!? 殊勝な心がけだが、我が素直に聞き入れると思ったか!?」
ガルシアの必死な制止は一蹴されるだけであった。
次第にデュラハンから強力な風が吹き始めた。これは巻き込まれたもの全てを消滅させうる魔術の風に間違いなかった。
今『カース・サイクロン』を受ければ、とても体がもたない事は明白でだった。
呪詛に耐性があるガルシアでも同じことである。ガルシアの呪詛への耐性を強めている、タナトスやカロンを使役する力が今はなく、ガルシアといえど危険なことに変わりはなかった。
「フハハハ! 消えろ、全て消えてしまえ!」
デュラハンの魔力はどんどん増大していく。最早誰にも止めなられない。
「……くそ、デュラハン……デュラハン……!」
ガルシアは、デュラハンの名を恨めしく口にするしかできなかった。
「さあ、最期の時だ! 冥府の業風……」
デュラハンが、最期の魔術を詠唱しようというまさにそのときだった。
弾丸のような土の槍が、デュラハンに向かって飛んだ。
「ぐおっ!? な、何だっ!?」
あまりに不意の一撃に、デュラハンは狼狽する。
土の槍はデュラハンを貫く事はできなかったが、集中力を途切れさせ、魔術の発動を妨害した。
その土の槍は、ガルシアの後方から飛んできた。故にガルシアは後ろを振り向く。
「なっ……!?」
ガルシア、及びデュラハンは、これ以上ないほどの驚きに包まれることになる。
土の槍を放った者は、部屋の入り口に立っていた。
鮮やかな金髪をし、特徴的なロングマフラーを首に巻き、そしてその手には、白金色に輝く刀身を持つ、太陽神ソルが作ったと言われる剣、ソルブレードが握られ、頭の後ろに担いでいた。
「バカな、ありえぬ! 奴は確かに我が息の根を……!」
慌てふためくデュラハンとは反対に、ガルシアは不意に訪れた救世主の顔を確認していた。
長い前髪に目元は隠れていたが、間違えるはずがない。幼き頃より共に育ち、一度敵対しながらも和解し、ここまで仲間と共に旅してきた人物。
「ロビン……!」
デュラハンの不意の凶刃に倒れた親友が、そこに立っていた。
ロビンは、こつこつと靴音を立ててデュラハンの方へと歩み寄る。
「ぬっ……ぐっ……!」
ただ歩いているだけだというのに、その行動はデュラハンにとって、得体の知れない恐怖感のようなものを感じさせるのに十分だった。
やがてロビンは、ガルシアの横に立って足を止めた。同時に仲間達から一点に視線を受ける。
「ロビン、生きてたの……?」
「幻、じゃないよな? だったらロビン、お前までここに来ちゃ……」
ジェラルドとジャスミンは言うが、ロビンは何も言わない。まるで人が変わってしまったかのように無口である。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL26 作家名:綾田宗