黄金の太陽THE LEGEND OF SOL26
ふと、闘霊は一言付け足した。そしてこれは、さらにロビンの選択を難しくする。
「我の命を受け、復活することは、転生の輪廻から外れることになるぞ」
「なにっ!?」
「待ちなさい、それって、ロビンが生き返れたとしても、寿命でまた死んだら存在がなくなるってこと!?」
ヒナの言う通り、悪逆非道の限りを尽くすなどして転生の輪廻から外れた者は、転生は叶わなくなるばかりか、死神にその魂を食われることになる。
「正確には少し違うな。二度目の死後、ロビンには新たな竜殺しの闘霊となってもらう事となる」
闘霊は詳しく答える。
「それは……」
「ロビン、ここで貴様に選択の余地を与えてやる。来世を闘霊として過ごすのか、それとも今このまま天界へと逝き、デュラハンが世界を統べるその時まで天者となるか。はたまた、デュラハンが討たれ、そのまま転生の時を迎えられる奇跡を信じるのか、選択は貴様の自由だ」
神ではない闘霊には、人間の人生にまで干渉することはできなかった。
ロビンが生きているのであれば、迷うまでもなく闘霊は力を与え、大地を守護するという役目を全うする所であるが、彼が死してしまった以上、理をねじ曲げてまで生き返すことはできない。
三つの選択肢を与えられ、ロビンは黙って考えているようだった。
「ロビン、ここは彼の言う通りです。私達は、ここで滅びる運命だったのかもしれません……」
ハモはロビンに無理強いはさせず、一時だけでも安らかに眠るべきであると思う。
「ハモ……あなたの言う通りかもしれないわね。あたし達はロビンに重責を与えようとしているわ。死んだ後の話とはいえ、ロビンを二度と人として転生できなくさせてる。ロビン、あたし達の事は気にしないで」
ヒナとハモ、どちらもロビンの意思を尊重しようとしていた。
「オレは……」
ロビンはついに決断を下そうとする。
「オレは、できるのなら生き返りたい。オレにはまだ、やり残したことが沢山あるんだ!」
ロビンは闘霊となる選択肢を選んだ。
「ほう……」
「ロビン、本気なの!?」
「私達のことを気遣っているのではないですか?」
ヒナ達の言葉はひとまず無視し、ロビンは闘霊にまっすぐに向き合う。
「竜殺しの闘霊よ、お前の力を得られればデュラハンを必ず倒せるんだよな?」
「保証しよう、竜をも葬り、神の作りし剣、ソルブレードを振るうことができる貴様にならば、我が力は存分に使いこなせよう」
「だったら今すぐにでもオレを生き返らせてくれ。こうしている間にも、みんなはきっと辛い戦いをしているに違いない!」
「ふん、実に貴様らしい。よかろう、では我が力と共に貴様を現世へと復活させてやろう。最後に訊くが、本当にこの選択でよいのだな? 次に死ねば二度と人へと転生できなくなるぞ」
「しつこいぞ、オレはもう決めたんだ!」
「よかろう、ならば我の側へ寄れ……」
ロビンは闘霊の言う通りにしようとする。
「ロビン……」
「本当にいいの……?」
ヒナとハモは多少の罪悪感を感じていた。彼女らは、ロビンの気持ちを尊重するような物言いをしながらも、内心はロビンにデュラハンを倒してほしかったのだ。
「二人もしつこいですよ。オレだってまだ死にたくないんです。生き返るチャンスがあるのなら、オレはそれに賭けてみたい。だからもう、心配しないでください」
ロビンは心配する二人に最高の笑顔を向けた。そして竜殺しの闘霊へと向き直る。
「さあ、闘霊よ、オレはどうすればいい?」
「ふふ……ははは……」
闘霊は不意に、笑い声をあげた。
「っ!? 何を笑って!?」
「ははは、すまない、オロチの時といい、君の勇敢さには敬意を示さずにはいられない……」
闘霊の声音が変わったかと思うと、ただの光る球体だった闘霊の姿が再び、人の姿を成した。
少し癖のある長髪をし、純白の衣を纏い、その右手首には数珠玉の飾りがある。
美しい姿をしながらも、その瞳には、英雄としての屈強さを持っていた。
闘霊が変化したその姿は、ロビンの記憶にはっきりと残っていた。
「まさか、役目を全うするのにここまで時間がかかるとは思わなかったよ……」
竜殺しの闘霊であった青年は苦笑を浮かべる。
闘霊が明らかにした正体、それは今より数千年の昔、ジパン島イズモ村にある巨大な岩山、ガイアロック、またの名をフジ山といった場所にてオロチを封印した英傑。
「お前は、ミコト!」
竜殺しの闘霊の正体は、イズモ村の英雄ミコトであった。
「久しぶりだな、ロビン。オロチを再び封印した日以来だ」
「ちょっと待ってよ! ミコトって、あの、魔龍オロチを倒したっていうあの英傑!?」
イズモ村に生まれたヒナは、ミコトについての話をよく知っていた。
初代の太陽の巫女、アマテラスの弟であり、自身の命を燃やし尽くしてまでオロチを封じ、そして死んでいったという伝説は、イズモの民ならば知らない者はいない。
「あなたは……そうか、姉上の生まれ変わりだな? 雰囲気がよく似ている。その上太陽の巫女の力をひしひしと感じる……」
「あたしも感じるわ。今のイズモの英雄スサが持つオロチ封印の力をね。それにしても、どうしてあなたがここに?」
「私が闘霊であるから、という言葉では納得いかないだろうね。では詳しい話をしよう……」
ミコトはオロチとの戦いの時、すでに竜殺しの力を得てその身を闘霊へと変えていた。
ミコトもまた、ロビンと同じような境遇にあっていた。
ジパン島より、西にある大陸のどこかにあるという大地母神ガイアの剣を探し求めて旅をしていたとき、ミコトは強力な魔物を相手に死してしまった。
しかし、生まれ故郷の危機や友の仇、そして何より、オロチを放っておけばいずれ世界に驚異をもたらす事からその魂は現世に残った。
天界へ逝くこともできず、現世へととどまり続けるミコトに、契約を求めてきたのは世界の守護霊、竜殺しの闘霊であった。
「後は私が先ほど話した通りだ。闘霊の命をもらい、私は復活した。しかし同時に、私は次の死を迎えたとき、闘霊となる事になった……」
闘霊の力を手に入れた後のミコトでも、オロチとの戦いは熾烈を極めた。太陽光の弱点を十分に受ける事もなく、スサが取ったような策を弄してもいないオロチの強さは、ロビン達が戦った時とはまるで格が違っていた。
決して死の訪れないオロチを、ガイアの剣を用いてミコトはついに瀕死に追い込む事ができたが、ミコトもまたかなりの重症を負っていた。
そしてミコトは、残った全ての力を使い、オロチを石に封印することに成功した。しかしそれは同時に、ミコトが二度目の死を迎える事となってしまった。
「私は今でもよく覚えている。最後の力を奮い立て、私の愛していた女、ツクヨミの所へ向かったことを。父母のいなかった私の唯一の肉親、アマテラス姉上の悲しみを……」
ミコトは必死の思いで故郷、イズモ村へ帰り、大切な恋人、ツクヨミの膝の上で最期を迎えたのだった。
その後、ミコトは約束通り、竜殺しの闘霊となり、世界を守護する大地霊の一つになった。
そして数千年の長い年月、新たに最強の闘霊の力を得るに相応しい者が現れるのを待ち続けた。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL26 作家名:綾田宗