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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL26

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 攻撃を見切り、隙を突いたと思っていたが、ユピターは型破りな方法で形勢逆転されてしまった。まさかあれほど崩されておきながら、まだ攻撃に転じられるとは思わなかった。
 ユピターが刃を弾くと、傀儡はやはり、猿のように跳ね回りながら距離を離し、体勢を整えた。
「げほっ、ごほっ……!」
 ユピターは脇腹を押さえつつ立ち上がるが、受けた蹴りがかなり強力であったために、強い息苦しさを感じた。
 同時に痛みも強く、それは耐えがたいものだった。肋が一、二本、折れている可能性もあった。
 それでもユピターは気をしっかりと持ち、傀儡から目を離さなかった。
 傀儡は言葉を発する事もなければ、感情を持たない木偶人形に等しい存在であったが、そんな状態となったユピターを指さし、嘲笑するような顔をした。
「ぐっ……! 人形ごときがバカにしてくれる……!」
 ユピターは悔しげに歯噛みをする。
 人形ごとき、と言いつつも、ユピターは自らの相手するものが、ただの人形ではないと自分でよく分かっていた。
 それ故に圧倒されている自分が悔しくてたまらなかった。
「私はまだ戦える……! まだ貴様に負けたわけではないぞ!」
 ユピターは痛む体を圧し、構えた。
 ユピターが構えたのを見ると、傀儡の方も挑発をやめ、サーベルを肩に担いだ。
 しかしユピターは、やはり動くことができずにいた。
 ふと、傀儡は不気味な表情を浮かべたまま、持っているサーベルをユピターに向けて放った。
「なにっ!?」
 ユピターは飛んでくるサーベルを打ち返した。サーベルは空高く跳ね返る。
 一体どういうつもりで武器を放ったのか、狙いを掴むべくユピターは傀儡へと目を向けた。
 しかし、その先に傀儡の姿はなかった。
 どこへ消えたのか探る間もなく、ユピターは一閃されていた。
 ユピターから血飛沫が上がり、その先、至近距離に傀儡はいた。
「ぐはっ……!?」
 ユピターは何が起きたのか分からないまま地に倒れた。
 ユピターはサーベルに気を取られ、傀儡の動きを捉えられなかったが、傀儡は有り得ないような攻撃をしていた。
 武器を放り投げて飛び道具のように利用したのかと思いきや、ユピターが弾こうが何もしないでいようが、傀儡はサーベルを、空に跳ね返るように放っていた。
 そしてユピターの意識がサーベルに向いた隙に、傀儡はその身軽な動きで飛び跳ね、空中を舞うサーベルを手にした。
 その後はサーベルの刃を下に向け、落下の勢いと共にユピターを斬ったのだった。
 飛んでくるものに、思わず気を取られてしまうという、生き物の習性を利用した実に巧妙な技であった。
 ユピターは肩から腹にかけて深く斬られ、致命傷に至ったと思われる深傷を負ってしまった。立ち上がることはできず、意識さえも薄れていく。
「アズール、ユピターをお願い!」
 ユピターの死の危機を察し、メガエラは両手に剣を出現させた。同時に傀儡へと飛びかかる。
「ほなそっちは頼んだで、メガエラさん!」
 アズールは地に倒れたユピターへと駆け寄る。
「これは……」
 アズールは思わず顔をしかめてしまった。
 ユピターの傷はかなり深く、手の施しようが無いかと思われるほどだった。
「……いや、やる前から諦めとったらアカンな。今助けたるからな、ユピターさん!」
 アズールはエナジーによる治療を始めた。
 アズールが治療に当たり、メガエラが傀儡に挑む様子を、ユピターは薄れゆく視界に捉えていた。
「手出しは……無用……奴は、私が……」
 ユピターはかすれた声を上げる。
「しゃべったらアカン、ユピターさん、傷にひびいてまうで」
「私は、まだ……!」
 アズールの制止の声が聞こえているのかいないのか、分からない上ユピターはまだ戦うつもりであった。
 そのような事が無理なのは、誰の目にも見える事だった。
 肩口から縦に一閃された傷は非常に深く、アズールの懸命な処置にも関わらず、傷口から血が止めどなく溢れ続けた。
「くそっ、こんなに血が……! ユピターさん、気をしっかり持つんやで!」
 ユピターにはもう、喋る余力もなくなり、目は死にかけの虚ろなものになっている。
 アズールの応援する声も、ユピターは遥か遠くから僅かに聞こえるものに感じていた。
 目を閉ざしかけたその時、ユピターに様々な記憶の風景が駆け巡った。
 それは、天界にいた頃、聖騎士団団長であったときの記憶である。
 一団体を統率しながらも、部下と同様に自らも修行に明け暮れていた。
 その時の修行相手はヒースである。彼とは何度となく手合わせをしたものであるが、たった一度たりとも勝つことはできなかった。
 ユピターは、力では決してヒースに勝てないと悟っていた。それ故に、別の事で彼を上回ろうとした。
 どのような相手であっても破れる事のない剣がヒースならば、ユピターは、ヒースを含めた全ての存在を守る盾となることを誓っていた。
 しかし、ユピターは守れなかった。
 デュラハンが天界へ現れ、魔物に占拠された町を守ることができず、多くの民を犠牲にしてしまった。
 マリアンヌを死なせてしまったがために、ヒースは強い憎しみに抱かれる事になってしまった。
 ユピターは、マリアンヌを救うことはおろか、ヒースを復讐の念から解き放つ事さえもできなかった。
 そして今、ユピターは自身の死の間際に立たされ、イリスや仲間の二人も、更にはユピター自身さえも救えずに消えかかっている。
 その時、ユピターの心にある思いが生じた。
――私はまた、何も救えないままに倒れてしまうのか?――
 親友であったヒースを、悲しみと憎しみから救い出せず、そのままデュラハンに唆されるままに魔の道を歩ませてしまった。
 もしもあの時、自らに十分な力があったのなら、憎しみのままに戦い続けるヒースを止める事ができたのではないか。
 そして今もまた、自分に力が無いばかりに、傀儡を相手に死の危機に陥っている。
 ユピターはそんな自分が悔しく、情けなかった。
「……たし……は……!」
 虚ろな目をして、消えゆくユピターが声を絞り出す。
「ユピターさん?」
 突然声を上げたユピターに、アズールは驚く。
「私はもう……誰も消えさせはしない……!」
 次の瞬間、ユピターは青い輝きに包まれ、同時に深く抉れた傷が塞がった。
「ユピターさんの傷が……!?」
 アズールは驚き、エナジーを止める。
 変化はそれだけに止まらなかった。
 傀儡と戦うメガエラは、少し圧されぎみであった。やはり型の定まっていない傀儡の剣に対応するのは難しい事だった。
「厄介な剣ね……!」
 柔軟性に特化し、的確に急所を狙ってくる傀儡の剣は、とても見切れるものではなかった。
 不意に傀儡は、先ほどユピターにやったようにサーベルを、メガエラの足元で弾むように放り投げた。
「ユピターと同じ轍は踏まないわよ!」
 メガエラは、傀儡が上から来るとにらみ、正面と上に意識を集中させる。
 しかし傀儡はまたしても予想外の動きを見せた。
 傀儡はそのままメガエラに向かって駆けていた。そしてメガエラの足を刈り、胸ぐらを掴んで引き倒した。
「うわあっ!?」