黄金の太陽THE LEGEND OF SOL26
メガエラは咄嗟に、地面に武器を突き刺した。しかしこの行動はメガエラにとって仇となってしまう。
「動けない……っは!?」
メガエラはようやく傀儡の目的を悟った。
メガエラの上空には、先ほど傀儡が放ったサーベルが回転しながら落ちてきている。このままであれば、メガエラの背中にサーベルが突き刺さってしまう。
メガエラは剣を抜くことができず、かといって手放すこともできない。
やがてサーベルはメガエラに刺さろうとしていた。
しかし突如として、メガエラを青色のオーラが包み込み、それはサーベルを弾き返した。
弾かれたサーベルは、カラカラと音を立てて地に転がった。
メガエラは何が起こったのか分からなかったが、傀儡は狙いが外れたため、メガエラを掴む手を離した。そして地を転がりながら、落ちたサーベルを拾い上げる。
メガエラも束縛から解放されるとすぐに体勢を立て直し、地面に突き刺してしまった双剣を引き抜いた。
「一体何が……?」
メガエラを危機から救ったものの正体はすぐに明らかとなる。
「ユピター……!?」
ユピターは致命的な傷を受けながらも立ち上がっていた。その上、傷はほとんど癒えており、左手には青く輝く円形のものを宿していた。
「……メガエラ殿、これより先は、私が奴の相手をつかまつる」
戦技に優れたメガエラには、すぐにユピターが手にしているものの正体が分かった。
それは持ち主の心より出でる、どのような力を以てしても決して壊れることのない不滅の盾である。
その範囲は、持ち主が守りたいと思うもの全てに及び、あらゆる攻撃、災厄から守ることができる。
真に何かを守りたい、と強く思う心の持ち主にしか出現し得ない、幻にして最強の盾、その名はアイギス・シールド。
ユピターの強い想いが盾となって顕現したものだった。
「さあ、勝負はここからだ!」
ユピターはアイギス・シールドを宿した左手を傀儡に向けた。
「アカン、アカンでユピターさん! なんやよう分からんけど、傷は塞がっても体力までは回復してへんやろ!?」
アズールは叫んだ。彼の言う通り、ユピターに深く刻まれた傷は、アイギス・シールドの出現と同時に完全に治癒した。
しかし、大量の出血をしており、本来ならば立っていられるのも不思議な状態であった。
「ふん……」
メガエラは双剣を空間から消滅させた。
「メガエラさん、なんで武器をしまうんや? ここはオレらがやったらな!」
「ユピターには借りができてしまったわね……」
メガエラはさっきの危機から救われた事を思い返す。
「この借りは今ここですぐに返すわ。ユピターにあの傀儡を倒させることでね」
メガエラにとっては、傀儡に一度危険な目に遭わされた事が何よりの屈辱であり、復讐したい所であったが、メガエラはその気持ちを堪えて手出ししないことにした。
しかし、このような理屈がアズールに通るはずもなかった。
「何を言うてんねん!? あんな状態で戦えるわけ……」
「アズール殿!」
ユピターが叫び声を上げる。
「この敵は私が倒す、いや、倒さなければならん!」
「そんな、ユピターさんまで……」
「最初からこの戦いは手出し無用にするつもりだったでしょ。大丈夫、もしここでユピターがヘマするような事があったら、その時こそこの私があの傀儡に復讐するわ。全力でね」
メガエラは不敵な笑みを浮かべた。
「残念だが、メガエラ殿に出番はもうない。私が二方を守ってみせる。この傀儡から、必ず!」
突然、傀儡はしびれを切らしたようにユピターに斬りかかってきた。ユピターはアイギス・シールドを前方に展開する。
「……アズール殿、もうこやつも待ってはくれないようだ。これ以上の議論は無用、後は私に任せてもらう!」
ユピターは盾で傀儡を押し返した。
「はあ……オレはもうどうなっても知らへんで……」
アズールはとうとう観念し、横を向いて頭を掻いた。しかし、本心ではユピターがいよいよ危険な状況になった時には、すぐに助けには入れるように横目で見守ることにした。
しかし、アズールの懸念は無駄なものだと分かるのに時間はかからなかった。
アイギス・シールドの防御性能は凄まじく、最強の盾の名は伊達などではなかった。
アイギス・シールドは、サーベルを持った猿のごとき、太刀筋がまるで読めない傀儡の攻撃を全て弾いていた。
盾はユピターの意のままに動き、拡大、縮小も行われ、まさに変幻自在の代物である。
ユピターの心から生まれ出たアイギス・シールドは、ユピターの心と繋がっており、彼の守りたいと考える対象に自ら移動する素質も兼ね備えていた。
右から来る攻撃を防ごうと考えた瞬間に盾はそちらに移動し、ユピターの身を守っている。
左から来る攻撃に対しても同様で、突きを放たれればユピターの目の前で盾は半分以上大きさを増して突きを弾き返し、背後に回られたとしても、ユピターが振り向くまでもなく、盾は移動してユピターの背中を守る。
盾そのものが生きているような動きをしていた。
「どうした、その程度か!?」
ユピターは降り下ろされたサーベルを盾で防ぐと同時にそれを跳ね上げ、両手を上げて隙を見せた傀儡の胴体を一閃する。
身軽な傀儡もさすがに、完全に体勢を崩されていては避けることができず、ユピターに胸元を斬られた。
しかしその一撃は浅く、致命傷には至らない。
傀儡は一度倒れるものの、受け身を取りつつ後転して立ち上がった。ユピターに斬られた所からは黒煙が血のように出ている。
「……傀儡の貴様でも痛みを感じられるのか? だが、マリアンヌ殿が受けた痛み、ヒースの心の傷はこんなものではないぞ」
ユピターは切っ先を向ける。
「彼らが受けた痛み、貴様にも味あわせてやろう! 行くぞ!」
ユピターは一直線に傀儡へと攻めかかった。間合いに入ると、ユピターは剣を横薙ぎに振る。しかし刃は空気を切り裂くだけである。
傀儡は地を転がってユピターの背後を取り、背中を斬ろうとした。しかしその瞬間、アイギス・シールドが動き、ユピターの背中を守る。
次に傀儡がとった行動は、高く飛び上がる事だった。
先にユピターに深い傷を負わせた時のような攻撃であり、サーベルに落下の勢いを乗せてアイギス・シールドごとユピターを両断しようというつもりだった。
「無駄だっ!」
アイギス・シールドはユピターの頭上へと移動し、更にユピターが念じると厚みを増して強度が上がる。
傀儡は断ち斬るどころか盾に傷一つ付けられず、反動とユピターが押し返した事により、後ろへと飛ばされた。
完全にバランスを崩された傀儡は、受け身も満足に取れず、背中から地面に激突した。
ユピターは起き上がられる前にとどめを刺そうと駆け寄る。地に向けて放った切っ先は地面に突き刺さる。
傀儡は横に転がり、ユピターの剣を回避しつつ、サーベルをユピターに向けて放つ。しかし、アイギス・シールドはそのような小さな隙を突いた攻撃も見逃さずに防いだ。
ユピターと傀儡は一度距離を開けた。
手負いの状態にも関わらず、ユピターはめちゃくちゃな剣を振るってくる傀儡と互角以上の戦いを繰り広げていた。
「なんて戦いなんや……!」
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL26 作家名:綾田宗