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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL26

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 故に、イリスを救えば同時にシバも救えるという可能性は十分にあった。
「そうか! 確かにイリスの再生能力ならば……!」
 かつてイリスに命を救われたガルシアは、彼女ならばやってくれると信じる事ができた。
 ガルシアは再び、柱に閉じ込められるままの弱々しいシバに目を向ける。
「シバ、今しばらくの辛抱だ。必ず君を助ける!」
 ガルシアが言うと、聞こえたのか定かではないが、シバは僅かに頷くような仕草をし、目を閉じた。
 そしてガルシアはデュラハンへと視線を向ける。
「デュラハン、貴様を討ち、シバとイリスを救い、ロビンの仇を取る。覚悟しろ!」
 ガルシアは啖呵を切る。しかしデュラハンはまるで微動だにしない。
「ふふふ……フハハハ……!」
 デュラハンは大きく笑い声を上げる。
「フハハ……! よもや人間ごときが、このデュラハンを倒そうというつもりとは、我もなめられたものよ!」
 デュラハンは玉座から立ち上がり、剣を出現させた。
「いいだろう、凡愚ども、格の違いというものをその身に刻んでくれる。来るがいい!」
 大悪魔デュラハンとガルシア達の激戦の幕が上げられた。
「先手必勝! 仕掛けるぜ!」
 シンが先発を引き受ける。
「行くぜ!」
 シンは漆黒の刃を扇状に振り、その影となった刃を両手に握る。
「オレの動きが見切れるか!?」
 シンは縮地法を使い、デュラハンの周りを、目にも止まらぬ速さで動き回った。
 シンはただ駆け巡っているわけではない。動くごとに両手に持った影の刃を空中に放っていた。
 やがてデュラハンの上空は、烏の大群が空を埋め尽くしているかのように、影の刃が宙を黒く染めた。
 デュラハンの逃げ場は、最早存在しない。
「さあ、万の刃に貫かれろ!」
 シンは影の刃の本体である漆黒の刃を、デュラハンの手前へと放った。
「止刻法・テンサウザンドダガー!」
 万を超える数の空間に停滞する影の刃が、デュラハンに向かって一斉に動き始めた。
「ふん、こんなもの……」
 デュラハンは避けられぬ数の刃を前にしても、完全に不動の姿勢を取っていた。
 デュラハンに迫り来る刃は、カキン、カキンと音を立て、デュラハンの鎧に弾かれていく。
 しかし、例え刃の一つ一つは弱くとも、それが連続となれば状況は変わる。それがこの技の狙いであった。
 百を超え、千に達する頃には、いくらデュラハンの鎧と言えど耐えきれずに悲鳴をあげ始める。そのはずだった。
「そんな!?」
「どうした、この程度で我を滅するつもりであったか?」
 デュラハンに降り注ぐ影の刃の数は、すでに千を超え、空中に滞空する数もそろそろ半分を割り始めていた。
 それにも関わらず、デュラハンの鎧には、一つたりとも傷がなかった。
 やがて、一万という数の影の刃が作り上げていた真っ黒な空間は、まばらに黒点を残すのみとなっていた。
 そして最後の一本が、デュラハンの鎧に弾かれた。シンの攻撃は終わってしまった。デュラハンにかすり傷一つ負わせることもできずに。
「ちっ、なんて頑丈なやつなんだ……!」
 シンは大きく舌打ちをする。
「シン、攻めの手を止めちゃダメよ! この先は私が行くわ!」
 デュラハンに攻めの時が渡る前に、ジャスミンが割り込んだ。
『プロミネンス・ファイナル!』
 ジャスミンは自らを中心として、広範囲に炎の渦を作り出した。
『ブレイズ・スパイラル!』
 ジャスミンは自信の周りを渦巻く炎を一点集中させ、それをそのままデュラハンへと放った。
 横に螺旋を描く炎は、デュラハンを囲み込み、更に上へと炎上する。
 デュラハンは炎によって、完全に周りを塞がれた。
「ぬうう……!」
 デュラハンは怯んだような声を上げ、周囲を見回すような胴体の動きを見せる。
 しかし、炎から逃れるすべはない。
「効いてるわ!」
 ジャスミンは手応えを感じた。
「追撃するぜ、オレに任せな!」
 炎の渦に巻き込まれ、身動きとれなくなったデュラハンに、ジェラルドが追い討ちをかける。
「唸れ、ダークサイドソード!」
 ジェラルドは、手にした暗黒剣の力を解放する。
 ジェラルドの声に呼応するかのように、ダークサイドソードは脈動した。
 剣の呼応と共に、ジェラルドは解き放つ。
「行くぜ! アケロングリーフ!」
 漆黒の剣状のエネルギー体が空中に出現し、炎に巻かれたデュラハンに突き刺さった。
 そしてそのままエネルギー体は、周辺に闇の力を散らしながら地面に沈み混んでいく。
 やがて、ジャスミンの炎とジェラルドの力は、大きな爆発を起こした。
 爆風がガルシア達に吹き付けた。
 強力な爆風で舞い上がる砂塵から、ガルシア達は顔を守る。
 ジェラルドは腕の間から、爆発の中心にいるであろうデュラハンの方を見やった。
「へっ、どうだ化け物が……!?」
 ジェラルドは手応えを感じていた。
 デュラハンは弱点と思われる炎に包まれた上、暗黒のエネルギーに貫き通された。
 さすがのデュラハンと言えど、無事ではいられないであろうと誰もが思った。
――妙だな……――
 シンだけはまだ気を抜いていなかった。
 これだけの攻撃を受けたのだから、無傷ではない事は確かであろう。しかし、デュラハンの力はまだ弱まっていない。
「みんな、油断しちゃダメだ! デュラハンはまだ……!」
 シンが注意を促したその時だった。
「があっ!?」
 デュラハンが凄まじい速さで砂塵の中から飛び出し、シンの顔面を握ってそのまま持ち上げた。
「ふははは……! なかなかの余興であったぞ!」
「シン!?」
 ぎりぎりと、デュラハンの握力が増していき、シンのこめかみを絞めていく。
「だが、遊びはここまでよ。すぐに貴様ら全員をなぶり殺してやろうぞ!」
 顔面を握り潰されんとしているシンから呻き声がする。
「シンを助けないと!」
 ジャスミンは手元に炎を出現させる。
「待て、ジャスミン!」
 ガルシアがジャスミンの手を下ろさせて制止した。
「兄さん、何で……!?」
「今お前が火を放ったら、シンまで黒焦げだ。下手を打てば、どちらも焼き殺すことになるぞ!」
「でも、だからといって放っておいたら……」
 デュラハンのシンを握る手はどんどん強くなっていく。このままでは頭蓋骨を砕かれ、脳や眼球を潰されて殺されてしまうのも時間の問題だった。
「うぐぐっ……!」
 シンは息もろくにできない拘束状態でも、デュラハンの腕に両手を伸ばした。
 右手を下から、左手を上から伸ばしてデュラハンの握る腕をつかんだ。そしてしっかり掴んだのを確認し、両足を勢いよく振り、遠心力を利用して大きく反時計回りに一回転した。
「ぬおっ?」
 デュラハンは手首を稼働範囲外に曲げられ、シンの作り出した勢いも相まってその巨体を宙に舞わせた。
 地面に倒され、握力が奪われたデュラハンはシンを手放した。その隙にシンは急いでデュラハンから離れた。
「げほっ、げほっ……はぁはぁ……」
 脳への血流を圧迫された上に呼吸も止められ、シンは軽い脳震盪を起こして膝をついてしまう。
「シン、大丈夫か!?」
 ガルシアがシンへと駆け寄る。
「げほっ、はぁはぁ……本気で死ぬかと思ったぜ……」