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或る兄妹の肖像 prelude+落書き

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side:80


 自分の家族はただ一人。双子の兄、名前は十代。同じ顔だが性格は正反対で、天真爛漫かつ人懐っこい気質は周りから好かれている。勿論自分とて例外ではない。自慢できる兄として誰よりも敬愛し、慕っていた。
 ただ、年を重ねるにつれて、目を合わせると、不意に胸が苦しくなる事があった。最初は気のせいかと思っていたが、次第に頻度は増し、一時は病気なのかとこっそり調べたりもした。該当する症例はなく、ずっと頭を悩ませていたが、最近ようやく理由らしきものが判明した。
 自分は十代に対して恋愛感情を抱いている。家族に対する愛情以上のものを実の兄に向けているのだと。何が好きという訳でもなく、存在そのものに惹かれ、それが彼のものであれば全てが愛しかった。
 一度自覚してみれば否定出来ない程、想いは強く激しく、表面上は隠すように抑え込むのが精一杯だった。確かに十代から愛情を受けている自覚はあるが、それは身内に対するもので、他の余分な感情が交ざるはずがない。彼にとって自分は大切な妹、それ以上でもそれ以下でもない。そうあるべきなのだ。
 自分に幾度となく言い聞かせてきた。そして、その度に反発する感情に悩まされた。今の所は平常を装ってはいるが、いつ破綻を起こすか自分でも分からない。
 その姿を脳裏に浮かべる事すら、苦痛となりつつあった。それでも一度映した姿を消し去る事は困難だった。


* * *


 その日は最悪だった。夜中に彼に抱かれる夢を見て飛び起き、同じ夢を見るのではないかという根拠のない恐怖に囚われて夜を明かした。寝不足の体は不調を訴えていたが、仮病を使う事は許せず、どこか思考の覚束ないまま半日を学校で過ごした。
授業中も気を抜けば夢を反芻しそうで、放課後になって少しだけ気の抜けた自分を労わっていると、遠くから誰かに呼ばれている気がした。
「――覇王?」
 よくよく声を聞かずとも澄んだ響きが心を震わせる。どうやらずっと前から呼び掛けられていたらしい。慌てて顔をあげると、至近距離に茶色の瞳が見えた。思わず頬が染まり、ほんの少し声が上ずる。
「……ああ、すまない。どうした?」
 普段は平静を装っているから、おかしな態度に思われていないだろうか。優しそうな笑顔からは、特別に不審そうな様子は見られなかった。
「いや、もう帰ろうかと」
「そうか……」
 返事はしたものの、思考はまだ彼方の方だったらしく。視界を手で遮られて、思わず目を瞬かせる。
「はおー?」
「……え?」
「え、じゃないよ。ぼーっとして。熱でもあるのか?」
 呟きながら十代が手を近づけてきた。それは額の温度を測る為だと分かっていたけど。
「いやっ」
 気がつけば手を払っていた。触れられるのが怖くて。触れられたら、自分の気持ちを知られてしまいそうで。
 そのような態度を取られるとは思っていなかっただろう。十代は目を見開いて固まったままで、距離のある視線に体の体温が一気に下がる。彼に拒絶されたら、きっと自分は生きていけない。
「……あ、ごめ――」
「違っ!」
 慌てて謝罪を遮る。彼が謝る必要はない。優しさを受け入れる事に怯え、拒絶してしまった自分に責があるのだから。ただ、素直に告げる訳にもいかず、なんとか他の理由を探して言い繕う。
「その……急だったから、驚いてしまって」
 最後にもう一言、心から謝罪の意味を込めた。
「十代は、悪くない」
 悪いのは自分だ。禁忌の感情を抱いた自分が全ての元凶で、何も気に病む事はないのだと。想いを伝えられたら、どれ程気が楽になるだろうか。考える必要もなく無理だと分かっていたが。
「やっぱり具合悪いんじゃないか」
「大丈夫だ。……少し、疲れているだけで」
 とってつけたような言い訳を信じてはいないだろうが、彼は首を振ると手を差し伸べてきた。いつもと変わらない口調。いつもと変わらない笑顔。自分もずっと昔のまま、変わらなければ良かったのに。
「じゃあ、とっとと帰るか」
 普段と変わらないように手を取る事すら、ひどく難しかった。


* * *


 帰途すら普段より長く感じるのは気のせいだろうか。十代の態度もどこかぎこちなく思えて、そっと問いかける。
「どうした?」
「いや、今日の覇王はちょっと様子がおかしいなって」
 予想された質問だった。だから、こちらも答えを取り繕える。
「どこが」
「ずっとぼんやりしてる」
「そう、なのか?」
 平坦な口調で、ゆっくりと首を傾げる。ちゃんと普段と変わらないように見えているだろうか。
「悩みでもあるのか? 相談に乗るぜ」
 口調はどこまでも優しくて。縋りついてはいけないのだと、半ば自分に言い聞かせるように答える。
「いや。大丈夫だ」
「そう、か……」
 ぽつんと呟いた後、十代は黙り込んでしまった。無言の彼は雰囲気が一変し、どこか近寄りがたくすら感じる。それが嫌で半ば無理矢理話しかけた。
「――十代?」
 向けられた表情はいつもと変わらない、ように見えた。ほんの少し、顔が強張っているようにも思えたけど。
「ああ、ごめん。ちょっと考え事してた」
 あっさり言われて、追及を諦める。そもそもこの身が何を問いただせるというのか。
「そうか……」
「ああ…………」
 そのまま二人で黙って歩く。追及がない事に少し安堵し、会話がない事を少し残念に思った。近くにいる事が嬉しくて、幸せで、それ以上に辛い。
 どうして隣にいる人と血が繋がっているのか。繋がりさえなければと思う事もあったが、そうなればきっと傍にいる事さえ叶わなかった。破綻した思考に振り回され、自分の立っている位置すら曖昧になってくる。全てを放棄すれば楽になると分かっているのに、どうしてそんな簡単な事さえ出来ないのか。不意に眩暈を覚え、十代に気づかれないように歩調を整える。



 家に着いた後、十代と如何様に接すべきなのか、もう分らなかった。