同調率99%の少女(7) - 鎮守府Aの物語
続いて提督が説明を引き継いだ。
「銃や刀など、一般的な武装・武器なら銃刀法に照らし合わせるのが当然なんだけど、艤装はあまりにも特殊なケースすぎて従来の銃刀法に合わせるのはどうかという議論がその後あったそうなんだ。その議論を持ちだしたのは艤装を開発した当時の企業の集まった団体だそうだ。一般的な銃刀法には当てはまらないことと関連して国内の非戦闘地域への持ち出しについても問題提起がなされたらしい。与野党全政党、関連団体他巻き込んで相当揉めたそうで、現在まで何度か艤装に関する法の改正が持ちだされたんだけど、結局国内の戦闘・非戦闘地域への持ち出しの規定については見送られたらしいんだ。俺も法律について詳しいわけじゃないから、知り合いの弁護士事務所に頼んでやっとこさ調べてもらって知ったことなんだけどさ。」
提督は手元の資料から一旦顔を挙げて那美恵たちサッと眺め、そして再び資料に目を向けて再開する。
「もともと日本国における艦娘……艤装装着者と深海凄艦に関する法律は20数年前の成立当時に大揉めに揉めてやっとこさで強引に成立させた、今にしてみれば結構穴の多い法らしい。なにせ今までありえなかった人外との戦いに対応するものだからね。とはいえ明確に敵に対して軍事力を行使するってことに敏感な人達が騒いだことも影響したそうで、結局2度目以降の法改正も見送られて議論も続いたまま。だから日本国の法としては国外禁止止まりということ。でもだからといって国内の自由持ち出しが公的に認められたわけではないんだ。非戦闘地域への持ち出し禁止の根は張られているかもしれない微妙な状態ということ。今は国内外の情勢の別問題もあって表沙汰にならなくなったけど、実は現在も関係各位と話をすりあわせて議論を続けている議員さんもいるとか。」
いつの間にか視線は下、つまり手持ちの資料に向いていて、眉間にしわを寄せて難しい顔をして話していた提督だが、那美恵らのほうに視線を戻して表情を和らげた。
「……ま、そのあたりの詳しい事情は又聞きになってしまうからツッコまないでくれ。だから黙ってやろうと思えば、どこにだって持って行けてしまうんだ。」
那美恵は法が絡んだ内容に興味なさそうな反応をし、提督をただからかうのみ。一方の三千花は内容に少し興味がある様子を見せる。
「艦娘と深海凄艦に関する法絡みの話って大変だったんですね……。知らなかったです。今回西脇提督が防衛省に聞いてわかったことですけど、もしかしたら艤装を黙って自由に持ち出してる鎮守府は今でもあるかもしれませんよね?」
「多分、あるだろうねぇ。」
提督は予想を答えた。
法律でその部分に言及する条文がなければ、抑止力がないために倫理的には禁止と思える行為を堂々とする輩は少なからずいるのが世の常である。艦娘の艤装は他の機器とは違い、技術A由来の同調という人と機械のいわゆる相性診断で明確に使用者を判別するため、持ちだされても使えない可能性が大きく悪用される危険性は低い。ただし分解されればその価値はまったく違うものになる。横流しして海外に艤装を持ち出すのに一役買っている鎮守府もある。そうして流れた先では、結果的には他国の役に立つ場合もあるが大抵は闇の世界行きである。つまりは分解され貴重な部品として売られてどこかの団体の財布を潤したり軍備の増強に繋がるなどだ。2080年代の今でも闇の世界は昔からあいも変わらずなのだ。
表沙汰にならないのは、艤装があまりにも特殊なケースすぎるため、鎮守府が隠してしまえば鎮守府を管理する国(政府)としては法律にないがために調査し、情報開示さす強制力がないのである。
鎮守府Aを任されている立場の西脇提督としては、法にないとはいえさすがに勝手に持ち出すようなことはしたくない、仮にでも大本営からそう言われたなら筋を通してそう扱いたいという考えである。
「まぁ法改正まわりは議員の先生方に任せておくとしても、実際の法律がどうであれ一度問い合わせた以上は従いたいというか従わないと気まずいからさ。俺らとしては防衛省のお偉いさん方から急の言いつけとはいえ、それにキチンと従って成果を出しておけばさ、持ち出しをうまく容認してくれる勢力の議員の方々の力にもなれるだろ?だから……」
「だからつまり、あたしは那珂の艤装しか持ち出せないってことだよね?」
「あ……。まぁ。そうなるな。」
苛つきがさらに強まっていた那美恵は先程よりも言葉の勢いが荒々しくなっていた。それに気づいた提督は気まずそうに返す。
提督からの返しの一言を聞くと、那美恵はソファーから急に立って激しくまくし立てた。
「それじゃあ意味ないじゃん! 那珂はあたしが使ってるんだよ!?他の艦娘用の艤装じゃなきゃ!」
「いやまあ、そうなんだけどさ……」
提督は那美恵をなだめようとするが、那美恵は収まる気配がない。
「これから配備される艤装勝手に持ち出させてよ!法律にないんだったらいいでしょ!?政治家さんの事情なんてあたし知らないもん!これから艦娘になってもらえそうな人のための艤装を持ち出せなかったらまったく意味ないよ……。」
「一応大ほんえ……防衛省のお偉いさんとの決まりだからさ・・」
「だから法律にないそんな口約束なんか反故にしてうちらも持ちだしちゃえばいいって言ってるの!」
那美恵が激昂する理由。それは同調できる艤装、つまり自身の担当である那珂しか持ち出せないという本来の希望とはかけ離れたことをその場しのぎで適当としか思えない条件をしてきた大本営に対して、そしてそれを承諾してしまった提督の甘さに対してであった。那美恵の中では法や政府のやりとり云々は眼中になく自身の目的のためということで、提督や明石にとっての向いている視野が異なっていた。
「那美恵、落ち着きなさいって。西脇提督もきっと立場上つらいはずなんだから。」
「そんなことわかってるよ。」
三千花の制止も一言で振りほどき、那美恵は再び提督に詰め寄る。
「提督さ、大本営からそういう条件の言い方されて、はいわかりましたって下がってきたの?」
強い剣幕で迫る那美恵にあっけにとられ提督は無言で頷く。それを見て那美恵は呆れたという意味で大きくため息をつき、ソファーに倒れこんだ。
「はぁ……甘い人だとはなんとなくわかってはいたけどさ、しっかりしてよぉ! あたし……たちの頼みの意味をもっと理解してから大本営と交渉してよ! もしここで余計なこと聞かなきゃ、ううん。うまい条件を取り付けられれば、あたしの高校だけじゃなくて、今後他の学校に対しても正しい手続きで持ち出せて、もっと効率よく艤装とフィーリングが合う人を探し出せるかもしれなかったんだよ?提督が言うところの味方になってくれそうな議員さんの力にだってもっと適切になれるかもしれないんだよ!?」
若干ヒステリックな口調で詰め寄られ、提督は一言で謝した。
「すまなかった……。」
「せめて大本営に話に行く前に私たちにもっとちゃんと意見を求めて欲しかったよ……。」
作品名:同調率99%の少女(7) - 鎮守府Aの物語 作家名:lumis