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ShiningStar

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 だが、そんな事故を起こす前に、突然現れた影が士郎を受け止めていた。
 その様を皆、呆然と見ていた。
 どこから現れた? と誰しも首を傾げただろう、さっきまでそこには誰もいなかったのだから。
「よ、よかった、アーチャー、いたんだ……」
 ほっとして、思わず呟いた陸には見えていた。士郎がゴールした直後、保護者の人波を飛び越えてアーチャーがその場所に至ったのが。
 アーチャーにはわかってたのかな、と疑問に思いながら士郎の様子を見て、陸の身体が強張る。ぐったりしたまま、士郎はアーチャーに支えられている。
 しーん、と静まり返る運動場。
 ざわざわと、士郎の様子を窺いつつ、次第に声がさざ波のように広がっていく。
「しろー!」
 陸が駆け寄ろうと足を踏み出したとき、バトンを持った右手が上がった。
 わっと歓声が上がる。
『あ、青チーム、優勝ですっ!』
 歓声交じりのアナウンスに、青チームは跳び上がって喜んだ。


「張り切りすぎだ」
「はは、ちょ……っと、がんばり、すぎ、た……」
 士郎はアーチャーに引きずられながら連行される。
 拍手で見送られ、曖昧に笑って士郎はそれに応えていた。
「まったく、ガキか……」
「しゃーねーだろー、勝ちたかったんだからー。でも、全力疾走なんて、久しぶりで、膝がガクガクしてるー」
「もう若くはないのだぞ」
「しつれーだなー、でも、今日は湿布貼って寝るー」
「老人と変わらんな」
「笑うなー、アーチャーのクセにー」
「意味のわからんことを言うな」
 木陰まで士郎を連れてきて、アーチャーはやけに慎重に士郎を下ろした。いつもならこんな時は、投げつけるように下ろしそうなものなのに、と士郎は首を傾げる。
「痛めてはいないのか?」
「あー、全然。痙攣してっけど」
「コーナーで滑っていたからな。あそこで足を痛めていると思ったが?」
「やばっかたけどなー。土が滑ってさぁ、足取られちまった」
 足に問題がないと納得したアーチャーは、士郎と並んで腰を下ろした。
「まさか、直角に曲がるとは思わなかったぞ」
「コースに沿ってなんて、曲がれねーよ、陸上選手じゃないんだし」
「まあ、陸の目には焼き付いただろう、ヒーローとしてな」
 アーチャーが士郎を振り向いて笑う。
「くふ……、だったらいいんだけどな!」
 士郎も笑った。アーチャーが自然に笑うと、士郎も笑えるのだ。
「信じらんねーよなー、運動会に保護者として参加してるなんて」
「まったくだ」
 陸に感謝しなければ、と頷き合う。こんな時間を与えてくれて、と。
「アーチャー、すげー、俺、楽しーわ」
「そうか。それは、よかった」
 頭を撫でてくれる手に、温もりと優しさを感じ、士郎は目を細める。
(お前も楽しいか、なんて野暮なこと、訊かない。だって、その横顔、見てればわかる)
 緩く結ばれた唇は笑っている。
 少しだけ目元を眇めて、優しい眼差しで陸の姿を追っている。
「アーチャー……」
 その腕を引き寄せる。
「士……」
 士郎は身を乗り出してその唇を奪った。見開かれる鈍色の瞳に、
「結界、張ってある」
 間近で小さく笑うと、アーチャーも、くすりと笑い、顎を取ってキスを返した。



*** なかよしな二人(サヨナラまで319日) ***

 夕食後、衛宮邸の居間では、陸が座卓で宿題をはじめ、アーチャーは座卓に新聞を広げ、士郎はアーチャーの背中にもたれてテレビのニュースを見ている。
「重くないの?」
 陸がアーチャーにこっそり訊くと、紙面から目を上げたアーチャーは首を少し捻る。陸が士郎を指さして、一度振り向き、再び陸に顔を向けたアーチャーは、全然、と言って、にこり、と笑った。
(そんなはず、ないとおもうけどなぁ……)
 いつも士郎はアーチャーにもたれている。今は背中だが、一緒にテレビを見ているときは腹側にもたれ、アーチャーは士郎の座椅子状態なのだ。
 陸にはアーチャーが気の毒に思える。重いなどと思ったことはない、とアーチャーは言うが、いつもいつもそんな状態で、疲れないのかと陸は心配だった。
 そして、いつかこういう状態にアーチャーが怒って、士郎と喧嘩でもして、出ていったりしたら……、などと陸はグルグルと考え込んでしまったりもするのだ。
 全くの取り越し苦労なのだが、小学生の陸には二人の関係がイマイチ理解できていない。
(アーチャーは、がまんしてるのかな……)
 宿題をしながら陸は考える。もし士郎に言えずにいるのなら、自分が代わりに言ってあげる、と提案しようと顔を上げる。
 いつの間にかアーチャーは新聞からテレビの方へ上半身を向けていた。士郎と何ごとかを話している。
 ぽかん、として陸が二人を見ていると、陸のわからないニュースの話を、内緒話をするように顔を近づけてしている。時々笑い合う二人を陸は、なかよしだなぁ、と思った。
 そのうちに士郎の背もたれになっていたアーチャーが、士郎の背中側から肩に腕を載せて、士郎に被さるようにもたれていた。
 士郎がもたれたり、アーチャーがもたれたり、交代なのか、と陸は気づいた。
(はは、なかよしだなー)
 そんな二人が幸せそうで、それを見ているのもうれしい陸は、二人の中ではいろんなことが許されるのだろうと気づき、二人の関係に疑問を浮かべることをしなくなった。

 陸なりに二人の関係を納得しつつあった頃、陸にはまた少し、悩みの種が芽生えた。
(ちょっと、ヘンなのかな……)
 陸は縁側から脚を投げ出し、ぷらぷらと揺らして洗濯物を取り込むアーチャーの姿を見ていた。
 陸はクラスメイトとの話を思い返す。
 小学校に通う子供たちには、当たり前だが、みな家族がいる。そして、みなの言う家族とは、血が繋がっているということ。だが、陸にはそういう人がいない。陸の両親はすでに他界しているため、父母がいないというのは仕方がない。
 ただ、陸が家族だと認識している二人とは、まったく血が繋がっていないということに、少なからずクラスメイトには怪訝な顔をされてしまった。士郎とは遠縁ではあるものの、それも系譜を辿ったらという話で、血縁とは言い難いのだ。
(おれにそういう人がいないってことくらいしってる。しろーとアーチャーがいて、おとうさんみたいな人が二人いるみたいだとか、そんなの、ヘンだなんておもったりはしないんだ。ヘンだなっておもうのは、おれのかぞく、しろーとアーチャーが、すごくなかよしだってことだけど……)
 陸がおかしいかもしれない、と気づいたのは、二人の距離だ。
 外では全くなのだが、家にいるときの二人はいつも近くにいる。近くというより、たいていくっついているのだ。
 士郎とアーチャーが契約上の主従だと陸は聞かされている。ただ、アーチャーが何者であるかや、人ではないとは、はっきりと聞かされたわけではない。アーチャーがサーヴァントだと説明されても陸にはピンと来ない。
 ただ、士郎の宝物だ、ということだけは理解している。士郎がアーチャーを見つめる眼差しは、温かく優しい。それにアーチャーが士郎に向ける眼差しも同じくらい優しいものだ。
作品名:ShiningStar 作家名:さやけ