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ShiningStar

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 二人だけに通じる何かがあり、二人だけの世界があり、それは親兄弟などという括りで縛られるようなものでなく、小学生が言葉で説明できるようなものではない。
 だからこそ家族である二人がどういう関係なのか、陸は明確な答えが見つけられず、思い悩んでいるのだ。クラスメイトと話をしていて違和感を覚えるのも無理はない。
 運動会に来た二人を見たクラスメイトは、かっこいーねと言ってくれたり、遠慮のない子は、お父さんじゃなくてお兄さんなのかと訊いてきたりもした。そして、二人は仲がいいのだと説明すると、兄弟だろう、と言われ、陸が否定すると、クラスメイトから変な顔をされてしまった。
 違う、と言いたかった陸は、無理な主張を避けた。
 察しのいい陸は、ここでゴリ押しすることの不利益を本能で回避する行動を取っている。
 そうして、二人の仲がいいのは兄弟だからだろうと提言されて、陸は違うとはっきり否定ができなかった。
(そとで言っちゃダメなんだ)
 陸は不意にそんなことに思い至った。

「陸」
 士郎に呼ばれて、顔を上げる。
「なんか、あったか?」
 陸はなぜ、そんなことを訊くのかと首を傾げる。
(あ、そうだ、こんだんかいだったんだ。先生になにか、言われたのかなぁ……)
 何を言えばいいかわからず、陸は士郎の顔をじっと見ていた。
「陸?」
 琥珀色の瞳が見つめてくる。陸はその瞳が好きだった。
 温かくて優しくて、真っ直ぐに自分を見てくれる瞳。だから陸は、ついなんでも言ってしまう。
「しろーとアーチャーって、きょうだいなの?」
「ん? えーっと、兄弟じゃないけどなぁ」
「そうだよね……。だけど、みんなが、きょうだいだから、なかがいいって言ってくるんだ。おれ、なんて言ったらいいか、わかんなくて」
「うん」
「しろーとね、アーチャーはなかがいいよって言ったら……、みんな、きょうだいだからだって言って……、でも、ちがうとおもうって、言えなくって……」
 うまく言葉にできない陸の頭を士郎は撫でる。
「陸、ごめんな。よく、わかんないよな……」
 士郎の少しだけ笑った顔を見て、陸は、どきり、とする。
(おれ、ひどいこと、言った……。しろーにこんなかなしいかお、させちゃった……)
 どうしよう、と逡巡していると、士郎は陸の黒と琥珀色の双眸を覗き込むように見つめる。
「でも、言っただろ? アーチャーは、俺の宝物だって」
「う、うん」
「兄弟じゃないし、他所の家とは違う。だけど俺は、アーチャーと陸と一緒にいることができて、すごく幸せだ」
 士郎は笑った。
 前のようなものではなく、陸にもわかるほど、幸せなんだ、という顔で。
 陸はそれだけで理解することができた。
(きょうだいみたいとか、おとうさんが二人みたいとか、かんけいないんだ。しろーとアーチャーはおれのたいせつなかぞくだってわかった。ううん、まえからわかってた。二人がたいせつな人だってことは、とっくに)
 自分たちのことを何も知らない人に、何を言われても関係ないのだ、と、陸の心は確信を持つことができた。
「しろー、おれ、もう、まよわないよ!」
「陸?」
「だって、しろーとアーチャーは、おれのたいせつなかぞくだもん!」
 抱きついてきた陸に士郎は驚きながら、そっと、その頭を撫でた。
「陸は、強いんだな」
 陸が身体を離すと、こつ、とその額に自分の額をつけて、士郎は笑った。



「やっぱさあ、陸の情操教育上、ちょっと、問題かも……」
 士郎は昼下がりに陸と話していたことをアーチャーに話した。
 アーチャーは翌日の朝食の仕込みをしながら、食器を洗う士郎に目を向け、そうだな、と頷く。
 士郎が思っていたよりも率直にアーチャーは認めた。
(やっぱ、正義の味方としては、子供の成長に悪害を与えたくない、とか思うんだろうか……)
 意外だな、と思った自分の方がおかしいのか、と士郎は苦笑する。
 正義の味方を体現したアーチャーにとって、それは至極当然のこと。彼は、英霊にまでなった英雄なのだから。
「だが、それはオレたちが、証明すればいいことだろう?」
「証……明?」
「何もおかしいことなどないと。だが、陸が迷わないと言ったのなら、もう気を揉むことでもないとは思うがな」
「おかしいことがないって……」
「おかしくないと言えないのなら、それは、士郎がやましいと思っているからだろう?」
 士郎は言葉に詰まる。
 そこを突き詰めれば、自分たちの関係性を曝け出すことになる。
(それを俺はできるのか? 陸に全てを話して、全てをアーチャーに曝すことが、俺に……?)
 食器を洗う手が止まった。
 知らず士郎の視線は、手元よりももっと下へ落ちてしまう。
(痛いとこ、突いてくれるよ、ほんと……)
 士郎は、いくつもの言葉を呑み込んでいる。
 アーチャーもそうなのかもしれない、と士郎は思いはじめている。
 アーチャーが自分をどう思っているかなど、こわくて訊けないのだが、アーチャーの自分へ対する接し方は好意的だと思える。
 だからといって、自分と同じような気持ちなのかどうか。もとより、そういう感情をアーチャーがいまだ持っているのかどうか確証はない。
(表情は多くなったと思う……)
 しかめっ面か、仏頂面か、皮肉めいた顔か、しかなかったアーチャーの表情に、笑顔が加わった。それも、とびきり士郎を動揺させるほどの破壊力のあるやつだ。
 そんな姿を見せられて、士郎は正直、参っていた。
 子供のように顔に熱が集まることもあり、泣きたくなる時もある。限られてしまった時間を、どこかで恨む気持ちも湧いてくる。
 男同士で、元を辿れば同じ人間でセックスをすることに、ちょっとバカだ、と士郎は思っている。けれど、これでしか士郎は自分の想いを遂げられない。愛してやまないんだと言えない分だけ、士郎はアーチャーの身体に執着している。
(やましいなんて気持ち、ない……)
 アーチャーとセックスをすることが現実逃避に近いとしても、士郎はアーチャーを求めている。アーチャーがどう思っているかはわからないが、世間的に不毛だろうがなんだろうが、士郎にしてみれば、なんら後ろめたいことではない。
 やましいなど、後ろめたいなど、一瞬も思ったことはないのだ。
 士郎はアーチャーを求める。どんなに口から想いが溢れそうになっても飲み込んで、アーチャーだけを欲しがった。
(それでもさ、伝えられない想い抱えてんのは、苦しいんだけどな……)
 スポンジを置いて、食器をすすぐ。
「やましいなんて、思ったことねーよ」
 やっと士郎は答えることができた。
「そうか」
 静かに答えたアーチャーに頷く。
 互いに視線は交わらないまま、二人は手元の一点を見つめたまま。
 士郎は喉まで出そうな言葉を飲み込む。アーチャーはやはり何か言いたげだ。
(たぶん、言わないんだろうな……)
 それに気づいていても、士郎は無理強いをしない。それがきっと、自分を思い遣ってくれてのことだと思うから。アーチャーがたくさん言いたいことを秘めていると、士郎はどこかで知っている。
(こいつは、優しいから……)
 士郎は泣きたくなる。
作品名:ShiningStar 作家名:さやけ