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ShiningStar

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 離れの部屋で、熱を出してもひとりで寝かさかれていた陸の境遇を思うと、これほどまともなのが不思議なくらいだ、と二人は感じている。
「アーチャー、このまま寝よっか」
「掛け布団をもう一つ出せばいいな」
 初夏の爽やかさは過ぎて、梅雨が近い。夜はもう寒くはない。
 士郎の提案にアーチャーも異論はない。陸を挟んで二人は川の字になって眠りについた。



「うー……」
 士郎が唸る。
「はぁ……」
 アーチャーがため息をつく。
「しろー、アーチャー、お水とくすりだよ!」
 陸が盆に載せたコップと市販薬を座卓に置く。
「陸、さんきゅう……」
「陸、すまないな……」
 士郎は頭を抱えながら、アーチャーは額を押さえながら、突っ伏した座卓から上体を起こし、陸からコップを受け取っている。
「んじゃ、おれ、がっこう行くから! ちゃんとねてるんだよ!」
「んー」
「気をつけてな」
 士郎とアーチャーは陸の風邪を当然のごとくうつされ、二人してダウンしている。陸はとっくに治り、週明けから元気に学校に通っているが、二人は週の半ばになってもこの状況だ。
 どうにかアーチャーは気力と意地で朝食を準備したものの、その後は士郎と同じく座卓に突っ伏したままだった。
「子供って、元気だよな」
「お前も精神面で言えば子供なのだがな」
「アーチャー、ケンカ売ってんのかよ」
「売るか、たわけ。そんな気力などない」
「英霊のクセに、風邪ひいてんじゃねーよ……」
「人も英霊も関係あるか」
 言いながら座布団に沈んだアーチャーに、士郎はそっと手を伸ばす。
「なんだ」
「大丈夫か?」
 同じように風邪をひいている士郎に心配されて、アーチャーは目を上げる。
 ろくに粥も受け付けない士郎の方が明らかに重症だろう、と思いながらアーチャーは、額に触れた士郎の手の優しさに目を細める。
「お前と同じくらい、大丈夫ではない」
 額に載せられたその手を引き、寝転んだ士郎の額に口づけた。
「士郎も熱い」
「アーチャーもな」
 どちらかが冷たければ、熱を分けあうことができるのだが、同じように熱を上げていれば倍増するだけだ。
「セックスなら熱くてもいいのだがな」
 ぽつり、とこぼれたアーチャーの声に、士郎はため息をつく。
「んな元気、ねーよな……」
「ああ」
 同意したアーチャーに士郎は笑う。
「元気になったらいっぱいしよーなー」
 士郎に抱き寄せられるまま、アーチャーは頷いて目を閉じた。



*** 水遊び(サヨナラまで275日) ***

 気の早い台風が夏休み早々にやってきた。
 台風一過の快晴の午後、衛宮邸の庭では、折れた庭木や風にちぎられた葉を集めて、後片付けの真っ最中だ。
「屋根はだいじょぶかー?」
 士郎の声に、瓦の点検をしていたアーチャーが、すと、と庭に下りてくる。
「問題ない。吹き飛んだものも、割れたものもない」
「そっか。屋根は問題なしだな。あとは……」
 士郎が目を向けたのは、トタンで覆われた修理工場だ。
「葉っぱにさ、塩、付いてんだよな。ってことは、けっこう海水巻き上げてきたんだろうな」
「ああ、そのようだな」
「トタン、流しておくか。錆びるとちょっとみすぼらしいし」
「傷むのも早くなるからな」
 アーチャーの同意に頷き、士郎は外の水道に繋いだホースを伸ばしにかかった。
「しろー、何するのー?」
 陸が庭に出てきて、修理工場の屋根に上がった士郎を見上げる。
「水で流すんだ。台風が潮水持ってきちまったから」
「へー」
「陸、水がかかるから、離れてろよー」
 士郎の声に返事をして、少し離れて陸は修理工場の屋根の上を見上げる。
 水しぶきが上がって、ときおり虹が見える。
 風に乗って、しぶきが陸の頬を掠めた。
「はは! きもちいー」
 修理工場の側まで行って、陸は落ちてくる水を浴びた。
 真夏日、家の中にいても暑いだけだ。水撒きなど滅多にしない衛宮邸の庭に水が撒かれているのだから、あやからないわけにはいかない。
「陸、何をしている……」
 アーチャーに呆れた声で言われ、振り向く。
「水あびー」
「……たわけ」
 額を押さえたアーチャーに、陸は、えへへ、と笑う。
「士郎に怒られるぞ。離れていろと言われただろう?」
「だって、あついんだもんー」
 確かにそうだろうが、とアーチャーはギラギラと照りつける太陽を見上げる。
 確かに暑い。
 しぶきとなって飛んでくる水が気持ちいいのは、アーチャーにもわかった。
「まあ…………そうだな」
 アーチャーも陸に同意して、しばらく佇んだ。

「わ! 何してんだよ! お前ら!」
 水を流し終えた士郎が、梯子を降りつつ驚く。
「陸ならまだしも、アーチャー、お前まで……」
「仕方がない。この陽射しが悪い」
「陽射しのせいかよ……」
 士郎が呆れながらつっこんで、手にしたホースを見て、にや、と笑う。
「覚悟!」
 アーチャーに向かってシャワー状態の散水ノズルが向けられた。が、アーチャーはサッと跳び退って、逃れている。
「ちっ」
「甘いな、士郎」
「逃げんな!」
 シャワーをストレートモードに切り替え、アーチャーを狙い撃つが、当たらない。
「こんの、ちょこまかと!」
 苛立った士郎が的を絞ると同時に、ふ、とアーチャーの姿が消え去った。
「へ?」
 士郎が面食らっているその首にアーチャーの腕が回される。
「て、てめ……」
 背後のアーチャーにノズルを向けるが、その手を握られ、自らの顔に向けられ、士郎は逃れようともがく。
「この、放せ!」
「ふん、オレに勝てるとでも思っているのか、貴様」
「ぜってぇ、勝つ!」
 士郎が意気込んだところで、ホースが何者かに奪われた。
「は?」
「む」
「へへ、もーらい!」
 陸が散水ノズルをこちらに向けて、ストレートから拡散モードへ切り替えた。
 ぶしゃ!
 水が広がるように飛び出し、二人はずぶ濡れ。
 しばらく放心状態だった士郎とアーチャーは、ともに口角を釣り上げた。
「りーくー……」
 捕えにきた士郎に水で応戦した陸だが、アーチャーに背後から捕えられ、呆気なくホースは奪われてしまった。
「もう、おしまい」
 士郎がホースを片付けるため、まとめはじめると、ぶう、と陸は不貞腐れた。
「士郎、まだだ」
「は?」
 アーチャーの声に顔を顰めて、士郎は振り返る。
「庭木にも水をかけなければ、塩害で葉が傷む」
「あ、そっか」
 ということで、衛宮邸の庭木にも水をかけることになり、水遊びは続行となった。
 その後、ひょんなことから、泥遊びに変わっていくことになる。そして、洗濯物を片したアーチャーが庭に戻り、泥だらけの二人を叱り飛ばしたのは言うまでもない。
 アーチャーにしこたま怒られて、縁側で夕飯まで正座をさせられる士郎と陸だった。


「まったく……」
 いい大人が泥遊びとは、と湯船に浸かって、アーチャーは呆れながら息を吐く。
「は……」
 この日は一日中片付けや何やらで動き回っていたため、少々疲れている。労働を終えて浸かる風呂は格別だ、などと人であったころの感覚がよみがえってくる気がして、少し笑っていた。
 笑って、そして、ため息をつく。
「そのうち、オレは……」
作品名:ShiningStar 作家名:さやけ