電撃FCI The episode of SEGA
二人の間にはかなりの間合いが空いている。攻撃に転じようにも、まずは近付かなければならない。
しかし、黒子には遠距離から攻撃する手段があった。
ホルスターから針を取り出し、ソニックの位置を特定して空間移動(テレポート)で針を飛ばす。
「はっ! そう簡単には当たらないぜ!?」
ソニックはジャンプして針を回避した。的を外した針はカラカラと音を立てて地面に転がる。
しかし、黒子はこの攻撃はかわされると想定していた。
狙いは、飛び上がってソニックが見せた一瞬の隙であった。
「撃ち込みますの!」
黒子はゲージを使用し、EXの能力で高速演算してソニックに文字通り一瞬の攻撃を与えた。
「おわあっ!?」
このEX攻撃を受けてしまっては、ソニックは落とされるしかなかった。
「黒子、絶好調ですの!」
連続した空間移動(テレポート)の使用により、黒子に秘められた特殊能力がポテンシャルとして発動し、能力の性能が上がった。
黒子は、まだダウンしたまま動けないソニックへと一気に駆け寄った。
「くそ……!」
起き上がりにできる行動はかなり制限されていた。ソニックはひとまず防御に徹する事にする。
しかし、この行動はソニックにとって仇となった。
「隙あり……」
黒子は小さく跳びながら手刀を振るう。
「おわっ!」
低い体勢でガードしていたために、ソニックは顔を打たれ、立ち上がるようにのけ反った。
「……ですわ!」
黒子はそのまま半回転し、回し蹴りを放った。ソニックは上空に打ち上げられる。
黒子は追従するように地を跳んだ。
「えい、やあ、はあっ! 拘束しますの!」
黒子は空中でソニックに手刀を振るい、とどめに膝蹴りを放った。その瞬間にEX技を発動する。
そのまま黒子は膝をソニックの腹にあてがい、右手で喉元を、左手でソニックの腕を押さえつけて地面へと落下した。
「痛いですわよ!」
ソニックを地面に貼り付けるように落とすと、黒子はソニックから離れ、体勢を整えた。
黒子の強烈なコンビネーションにより、ソニックとの体力差は五分になった。
黒子はそこへ更なる追い打ちを仕掛ける。
コースの端にあるトーテムポールに手を触れ、それごと空間移動(テレポート)してソニックの上空へ現れた。
「隙だらけですわ!」
黒子はトーテムポールをソニックに叩き付けた。ソニックの体力は残り僅かとなる。
「くそ、やりやがって……!」
立ち上がったソニックに止めの一撃が飛んできた。
「逃がしませんわ!」
鉄の針はソニックに命中し、ソニックをノックアウトさせた。
「ぐっ、やるな……!」
こうして黒子は逆転し、一本目を先取した。
「まだ続けますの?」
「へっ、当たり前だろ!? 次はやられないぜ」
このイグニッションデュエルには、特有のルールがあった。
勝った側も負けた側も、ラウンドをまたぐ際には決定するべき選択がある。
イグニッションと呼ばれる強化によって、プレイヤーの基礎能力を上昇させる、サポートキャラクターの性能を上げる、またはブラストを増加させる三つの強化が可能であった。
この強化により、多少不利な状況も逆転させることができるのである。
「オレはオレにイグニッションするぜ。クロコ、お前はどうするんだ?」
黒子は少し迷った様子を見せたが、ゲージをかなり消費したため、ブラストにイグニッションすることにした。
「次も畳み掛けますの!」
ソニックの体力が戻り次第、第二ラウンドが始まった。
「流れを取り戻すぜ!」
ソニックはジャンプと同時に攻めた。
ジャンプの直後にソニックは丸くなり、滞空する。そして黒子に向かって突撃した。
「ホーミング・アタック!」
その様子は、まるで銃から弾丸が発射されるようであった。
「ダメ!」
黒子はガードする。
「それで防いだつもりかい!?」
ソニックは着地すると、スライディングの要領で黒子の足元を払った。
「うぎぇっ!」
黒子は思わぬ派生攻撃に、とてつもなく妙な声を出してしまった。
ダウンした黒子に、ソニックは前方宙返りをしながら踵落としを放った。
更にソニックは、黒子の起き上がり際に攻撃を仕込んでいた。
「サマーソルト!」
ソニックは足払いで黒子の体勢を崩し、後ろに大きく弧を描きながら宙返りと同時に蹴り上げた。
「ああん!」
今度は黒子が打ち上げられた。その隙にソニックは追撃する。
ソニックの追撃は、まるで空中でブレイクダンスでもしているかのようであり、黒子にも劣らない華麗な足技の連続である。
「ホーミング・アタックEX!」
ソニックはゲージを使用し、ホーミング・アタックを強化した。
弾丸の発射されるような突撃は音速を遥かに超え、光速にも迫る勢いであった。
超高速での体当たりの後、ソニックはそのスピードのまま地面に着地した。後に続いて黒子も落下する。
体力は残り半分を割った黒子に対し、ソニックはノーダメージであった。
この状況のまま圧しきるべく、ソニックは黒子へと駆けた。
ソニックはまたしても技を仕込んでいた。
勢いに乗っているソニックの攻撃は非常に激しく、黒子はソニックの狙い通りに圧されてしまう。
ソニックのクイックコンビネーションが決まってしまう前に、黒子はブラストを放って追撃を回避した。
「そこまでですわ!」
「おあっ!?」
黒子のエスケープブラストによって生じた衝撃波により、ソニックの連続攻撃からひとまず逃げることに成功する。
しかし、このブラストは相手との距離を強制的に離すだけで、体力は回復せず、ゲージも一切増加しない。
「へへっ、Escapeしちまったな? しばらくブラストは使えないぜ」
「くう……!」
状況に大きな変化はなく、しっかりとソニックの動きを見ていなければ、次の一撃でやられてしまう危険な状況であった。
黒子が様子を見ていると、ソニックはスピンダッシュで攻め寄せてきた。黒子は腰を落として攻撃をガードする。
しかし、ソニックの攻撃全てを受けきる事はできなかった。
「これがオレのAceだ! ブルートルネード!」
ソニックはスピンダッシュから軽くジャンプし、空中を何周にも渡って回転し、強風を巻き起こして竜巻に変化させた。
強風に巻き上げられた僅かばかりの小さな砂塵も、ソニックの風に乗れば十分な威力を誇る刃となり、黒子を、いや、黒子の体力を削っていった。
「まずい、ですの……!」
ソニックの切り札を受け、堪らず黒子はノックアウトしてしまった。これにより、一方的な試合展開でソニックが一本取り返すこととなった。
「さあ、もっとやろうか!?」
ソニックは指先をクイクイと動かし、挑発的なポーズを取った。
「わたくし、絶対に負けませんの!」
次はいよいよ最終ラウンドである。もう一度イグニッション選択の時間が与えられる。
「行くぜ、ダブルイグニッションだ!」
ソニックは自分自身に更にイグニッションした。
ダブルイグニッションとなり、ソニックの能力は極限まで高められた。
「わたくしはブラストにイグニッションしますの。ここから逆転してみせますわ!」
作品名:電撃FCI The episode of SEGA 作家名:綾田宗