電撃FCI The episode of SEGA
「カオスコントロール!」
ソニックはカオスエメラルドを空に掲げ、時空間制御の能力を使用した。
いつもならば特に問題なく使用できるカオスコントロールであるが、イグニッションデュエルの最中に、それも相手の攻撃を受けている時に発動するとなると、体力をも消費してしまうデメリットがあった。
そんなデメリットがあっても、カオスコントロールを使わなければ、このまま生き埋めにされて負けてしまうのは自明の事だった。
コースの崩壊が進む中、ソニックはダメージを受けながらもカオスコントロールで脱出していくのだった。
黒子は遠くの、コースの外れへと真っ先に退避した。
能力を駆使し、破壊させたコースが崩壊していく様子を遠目から見ていた。
「ふむ……少々やり過ぎた感がありますが……」
黒子はかつて、学園都市で起きた事件について思い出した。
幻想御手(レベルアッパー)と呼ばれる、能力者のレベルを上げる裏の代物が出回ったことがある。
風紀委員(ジャッジメント)としてその事件に携わった時、黒子は能力を最大限に使用して廃ビルを一つ倒壊させた。
今回のコースを分断するという強行は、その時にやったことを応用したものだった。
あの時といい、今回といい、黒子は我ながら無茶なことをしてしまったと思っていた。
「まあ、この世界では死者がでることはありませんし、ソニックもきっと無事……」
「そうだな、なかなかThrillingだったぜ」
黒子の後ろから、英語混じりの独特な声が聞こえた。
「なっ、その声は!?」
黒子は驚き振り返る。
そこには体力をかなり消費しているが、それを逆転する事もできるポテンシャルが発動し、赤いオーラを立ち上らせるソニックが立っていた。
「へへっ! 顔に似合わずずいぶん大胆なことするじゃないか、クロコ!」
「どうして、てっきり勝負はもう……!?」
黒子は言いかけると、ふとソニックの手に握られている宝石に目がいった。そしてソニックの特殊能力を思い出す。
「まさか、カオス、なんとかという力で脱出を!?」
「カオスコントロールさ。ただし、特別な切り札として使ったせいでさすがに体力がヤバいけどな」
黒子のポテンシャルはすでに終わっていた。先の大技の使用でゲージもなくなり、ブラストも貯まりきるまでまだまだ時間が必要であった。
黒子もソニックも、体力を大幅に消費しており、次に何か攻撃を受ければ勝敗が決する状況である。
「さて、クロコ、そろそろ勝負を決めようぜ。もちろん勝つのは……!」
ソニックはダッシュし、スライディングの要領で黒子の足を払った。
「まだまだ行くぜ! Combo Blast!」
「ああっ!」
ソニックのコンボブラストによって、黒子はその衝撃波で上空に飛ばされた。
「さあ、全開で行くぜ!」
ソニックは七つのカオスエメラルド全てを取り出し、空中に放り投げた。
カオスエメラルドは空中に浮遊し、ソニックの周りを回転し始めた。回転は次第に速くなり、七つのカオスエメラルドは虹のようになっていく。
七つのカオスエメラルドが織り成す虹色の輝きがソニックを包み込むと、ソニックの体は眩い金色になり、針は逆立って、緑の瞳は紅に変化した。
奇跡の力を宿し、無限の可能性を秘めたカオスエメラルドの真の力を受け入れられる者のみができるというスーパー化を行ったのだ。
スーパー化したソニック、スーパーソニックは、能力がこれまでより段違いに上がり、あらゆる攻撃によるダメージを受けない不死身となり、更に持ち前のスピードは光速をも超えることができる。
「行くぜ……!」
ソニックは反重力によって飛行し、コンボブラストで吹き飛ばされる黒子に狙いを定めて力をためる。
そして最も力がたまった瞬間、ソニックは光の矢となって空を駆けた。
「ライトダッシュ!」
光の矢と化したソニックは黒子を真っ直ぐに貫いた。
「そんなー……!」
ソニックのクライマックスアーツが炸裂し、黒子の体力のバロメータはゼロになった。
地面に落ちた黒子は動かない。しかし、光速の体当たりを食らっても死ぬことはなく、この世界の理により気絶しているだけである。
黒子の気絶と同時にイグニッションデュエルの勝敗も決した。
「Hey,guys! また遊んでやるぜ!」
ソニックはスーパー化した体のまま、勝利のポーズをとるのだった。
※※※
黒子は目蓋に突き刺さる光で目を覚ました。同時に草の上で寝ていたことに気が付いた。
そして、すぐに気を失っていた原因を思い出す。
「……わたくし、負けましたの……」
イグニッションデュエルで敗れた者は、死ぬことはおろか怪我も、それこそ掠り傷一つ負うことはない。ただ体力を使い果たし、気絶するだけである。
そう言えば、と黒子はある者を探すそぶりを見せる。
黒子の探す者、それは黒子と戦い、見事に勝利をおさめた対戦相手である。
その相手は、すぐ近くにいた。
ソニックはヤシの木に身を預け、安らかな寝息を立てていた。
スーパー化も解けており、もとの青色の姿に戻って、実にリラックスした様子であった。
「んっ、んん……」
黒子がしばらく観察していると、ソニックはゆっくりと青い目蓋を開いた。
「ん……っと、うっかり寝ちまったか……ふあぁ……」
ソニックは大きな欠伸をし、背伸びをする。
「んあ? クロコ、起きてたのか。どうだ、体の調子は平気か?」
「おかげさまで何ともありませんの。この世界の理が働いて傷一つついていませんわ」
「そうかそうか、それなら何よりだ……」
ソニックは眼下に広がる風景に視線を移した。
ヤシの木が立ち並び、ヒマワリの花が咲き、大きな滝の見える川の近くの草原地帯グリーンヒルゾーン。常夏を感じさせるここは、ソニックにとって非常に馴染み深い場所であった。
「それにしても、ここはとても自然豊かな所ですわね」
黒子は何気なく、ソニックの見る先の景色を見て呟いた。
「お、クロコもそう思うか?」
「ええ、もちろんですの。学園都市にはこれほどの自然を感じられる所はありませんから」
「そうなのか? まあでも確かに、この世界じゃこれ以上の自然を見付けるのは難しいからな……」
ソニックはふと、郷愁に包まれた。
「ふっ、ここに来ると、やっぱり思いだしちまうな……」
「ここで、何かありまして?」
「ああ、ここはオレが初めて本格的に冒険した場所なんだ」
ソニックが最初にこの地を訪れたのは、偶然にもエッグマンが悪事を働いている時だった。
ここに生息する動物達を捕らえ、自身の造るメカの動力源として彼らをメカに閉じ込めていたのだ。
その様子を見ていたソニックは、動物達を救い出すために、エッグマンとの戦いに身をおくことになったのである。
「エッグマンのやつ、世界征服なんか企んでやがったんだ。しかもそのために罪もない動物を利用してな」
ソニックはエッグマンの企みが気に入らなかった。それ故にエッグマンのメカを壊して閉じ込められた動物達を助け、エッグマンの野望を阻止するために、彼と戦ったのだった。
以来、彼との因縁は続いている。
「ソニックはよほど強い正義感をお持ちですのね」
作品名:電撃FCI The episode of SEGA 作家名:綾田宗