こらぼでほすと 散歩6
理路整然と、そう言って刹那は腕を組んだ。せっかくなら、おかんには珍しいものを見せたい。野草は街には少ないはずだ、と、刹那は考えた。
「とりあえず、飯を食ったらスタッフに尋ねろ。それが終わったら相手をしてやる。」
「了解。」
確かに、そうだな、と、刹那の女房も頷く。まあ、あれだけでは寂しいから、どこかで秋の花の鉢植えも追加すればいいだろうとは予定していたけれど。
午後前にドクターから開放された。ただし、食事はしていけ、と、命じられたので病室で食事する。トダカから連絡がないので、勝手に帰ってもいいのかどうかが判らない。
「ちゃんと食べないと帰れないんだからねっっ。」
適当で手を止めたら、リジェネに叱られる。そんな入らない、と、文句を言うと、「僕も食べない。」 と、ごねられて、ニールはしょうがなく半分は腹に入れた。ここんところ、リジェネがべったりしているので食事を抜くこともなくなった。お陰で体重も安定しているのだが、ニールは、それにすら気付かないのがポイントだ。当人は体調が良くなっているとは気付いているが、リジェネが管理してくれているとは解らないのだ。ティエリアからも聞いていたし、リジェネも、そこいらは理解している。ニールは、こと自分に関することには無頓着になる。子供たちの健康には気をつけて管理するのに、当人のことはダメらしい。それがニールの壊れているところだ、と、気付いた。介護は無理矢理強引に、というのも、そういう意味で決められたルールだ。
「はい、クスリ。」
「はいはい。デザートは任せるから食べてくれ。」
「わかってる。でも、一口っっ、はい、あーん。」
「・・・もう・・・」
果物を口に入れられて、ムグムグとニールが口を動かす。よし、と、リジェネは、それを確認して残りを口にする。これがリジェネの一番好きな日常だ。ママの具合も良好で、これなら寺に戻っても問題はない。そこへ珍しくダコスタが現れた。
「昨日、店で運転手と荷物持ちが入用だとトダカさんが言うので、俺が出張ります。ハイネは、今日、バイトで外に出てるんですよ。」
昨晩、店は開店していた。まあ、飛び込みの客はいないので予約のお客様が二組しかなくて、バーテンダーの手伝いをしていたダコスタが指名されたとのことだ。さすがに、トダカは腰が悪いので重いものは持たせたくない。虎が、それなら、おまえが行け、と、命じたらしい。
「いや、大したことじゃないんだ、ダコスタ。」
「でも、ビールの箱買いなんでしょ? それなら俺が付き合いますよ。刹那くんたちの帰る時間もわからないんだし。・・・・それに、たまにはニールのごはんも食べたいので、報酬は、それでお願いします。」
「そういうことなら頼むよ。今日も出勤か? 」
「予約は少なかったから呼び出しがなければ休みです。」
「なら、泊れ。ゆっくりメシ食ってけばいい。希望があるなら作るぜ? 」
「いや、なんていうか家庭の味? そういうのが希望かな。」
ダコスタも独り者で、どうしても家庭の味には餓えている。煮物やら焼き物、酢の物なんてあたりが食べたい。
「肉じゃがとか、そういう感じか? 」
「そうそう、そういうのがベスト。あと、俺、酒は持ち込みしてもいいですか? ジンが好きなんで。」
「そこいらは好きにしてくれ。うちはオールセルフサービスだからさ。」
寺にある酒は、基本、ビールと焼酎なので合わない人間は各自で調達することになる。ダコスタは、軽いジンが好きで、これに生ジュースをしぼったカクテルぐらいで飲みたい。ちょうどビールを箱買い予定だから、そこで調達するつもりだ。
買出しして寺に戻ったら、シンとレイも現れていた。とりあえず、亭主に挨拶して、おやつの準備をしようとしたら、すでに中華丼の具材が用意されていた。
「俺たちで作りました。だから、夜も、これで。」
「ああ、すまないな、レイ、シン。悟空は? 」
「今、墓地のほうの掃除に行ってる。ねーさんが戻るから、俺たちも戻っただけだ。じゃあ、ちょっくら手伝ってくるぜ。」
レイの携帯にリジェネが連絡を飛ばしていたとのことだ。とりあえず出迎えるために、ふたりだけが戻ったらしい。
「今日も交通機関が少しマヒしていたので、アカデミーは休みだったんですよ、ママ。だから、こちらで待っていました。俺たちは店に出勤しますから、おやつを食べたら出かけます。」
シンとレイが、そう言うと外へ飛び出していく。台風と秋雨前線で、かなり風も強かったらしいので、墓地は荒れているのだろう。
「ダコスタ、好きにしててくれ。・・・三蔵さん、呑みますか? 」
「ポン酢の和え物を用意しろ。」
「はいはい、菊菜としめじでどうですか? 」
「それでいい。結果は? 」
「異常はないそうです。詳しいのは後日らしいですが、ドクターがチェックした限りは問題ないそうです。気圧変化はダメですけどねぇ。」
「そのうち慣れるから諦めろ。」
「はいはい。」
出勤する坊主のために、とりあえず晩酌の段取りから始める。リジェネが、坊主に、検査結果については詳しく報告しているので、ダコスタも卓袱台の前に座る。
「ハイネの代役か? ダコスタ。」
「はい、あっちはバイトで。今夜、泊めてもらってもいいですか? 三蔵さん。」
「好きにしろ。ハイネの部屋が空いてる。ちび猫たちは? 」
「まだ戻ってません。一泊二日の予定なので、今夜には戻ると思います。」
「すまんが頼む。俺も仕事だ。」
「了解です。」
リジェネだけだと、ちと心配になる。そこいらを考慮してトダカと虎はダコスタを用意してくれた。ハイネなら、適当に休ませてくれるが、リジェネでは、そこいらの調整が怪しい。外の仕事でなければ、ハイネも戻れるが、さすがに依頼されていたものは断れなくて、こういう陣容になった。
「早く戻って来ると予想していたんだが。」
「一応、新婚旅行らしいんで、それだとロックオンが拗ねるんじゃないですか? 」
「というか、まだ、こっちには戻ってないよ? 三蔵さん。刹那のクルマの移動データでは、到着は夜になる。」
「何してやがんだ? 」
リジェネのほうは、刹那の移動データをクルマでチェックしている。それによると、まだ旅館近くに滞在しているのだ。それも、あっちにふらふら、こっちにふらふらしていて一箇所に留まってもいない。迷走しているような様子なので、リジェネにも、よくわからない。
「いろいろと移動してるんだ。ホームセンターとか寺とか公園とかさ。だから、観光してるって感じ? 」
「あれ? ラブホ一択だと思ったけどなあ。」
「旅館を昼過ぎにチェックアウトはしてるよ? ダコスタ。」
いちゃこらしたいロックオンのことだから、残りの時間も、そういう楽しみに使うだろうとダコスタは考えていたが、実際は違うらしい。正しい観光をするとは思っていなかった。
「本宅に戻らないように連絡したほうがいいかな。」
「もう、寺に戻ったってメールしておいた。意外と律儀だね? 刹那は。きちんと二十四時間、付き合うつもりなんじゃない? 」
「ああ、そういうことか。」
二十四時間、ロックオンに付き合うという約束だから、時間までは付き合っているらしい。そういう意味では、刹那は律儀だ。
作品名:こらぼでほすと 散歩6 作家名:篠義