敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
波動砲でカロンを撃てば
「斎藤だ!」と真田は言った。「あいつを機関区に行かせましょう。ウチのメカニックどもならば、エンジンのこともなんとかわかるはずです。機械に強い者を何人か送ってやれば……」
徳川が頷く。「藪ひとりよりはいいだろうな」
「わたしの部下が着ているのは、耐スペースデブリの強化船外作業服です。かなりの熱にも耐えられる」
それでなんとか、機関科員が回復するまで、炉の暴走を食い止められるかもしれない。斎藤とその部下どもは今までケガ人の救助にあたっていたようだが、もう医務室に運ぶべき者はみんな運んでいるはずだ。〈ヤマト〉が海に潜った後に新たなケガ人は出ていないわけだから――悪いがあいつに次の仕事をやってもらうときと言うことなのかもしれないと真田は思った。
「いいだろう」と沖田が言う。それから、「相原、わしの命令としてくれ」
「はい」と言って相原が真田の方を向いて聞いた。「斎藤副技師長でよろしいですね」
「ああ」
斎藤が呼び出され、『機関区へ行け』との指示が伝えられる。それが終わったところで、
「それで」と沖田が言った。「話を戻そう。真田君、〈魔女〉をどうするかだが」
「はあ」
「言っておくが、『波動砲でカロンを撃つ』というのはダメだぞ」
「はあ」
「君はさっきそう言ったが、この作戦で波動砲は使わない――決定事項と言ったはずだ。だがそれでも、一応聞くだけ聞くとしよう。波動砲でカロンを撃てばこの状況がどうにかなるのか?」
「はあ」
と言った。確かにほんの数分前、『波動砲でカロンを撃てば』とおれは言ったと真田は思った。言った途端にしかしこれは論外だ、おれは何をバカげたことを、と自分で思いもしたのだが、その後になんだかんだとあってそれきりとなっている。自分としてはそのまんま、なかったことにしたい話でもあるのだが。
「ええと……」
「なんだ。まさか考えなしに言ったわけではないだろうな」
「そういうわけではありません。ただ、充分に考えて言ったわけでもないのですが……確かに艦長のおっしゃる通り、今ここで波動砲は使えません。続けてワープできないと言うだけでなく、ここで撃てば敵に殺られる。カロンを撃つにはこの海から出ねばならず、出たら途端に上で待つ敵に砲撃を喰らってしまう。波動砲を撃とうとすれば準備中、船は無防備で応戦できない……これでは撃ちようもありません」
「そうだな」
「はい。ですから、これはダメだと知った上で一応説明するだけしますが、もしカロンを吹き飛ばせたら、対艦ビームを封じることができるはずです」
「そうなのか?」
「はい」と真田は言った。「〈ラグランジュ・ポイント〉です」
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之