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敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女

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荊棘の刑台



「この仕掛けは、外からの侵入者を防ぐためのもんじゃないな。中の者を逃げさせないためのものだ」

と尾有が言った。宇都宮がそれに応えて、

「つまり、またぼくみたいなのが脱出するのを防ぐってこと?」

「うーん、まあ、それもあるかもしれないが……」

とまた尾有。高圧電流付きの鉄条網をざっと調べてみた結果、言った言葉がそれだったのだが、敷井にもどういう意味かわからなかった。変電所に外から入ろうとする者を防ぐのではなく、中から逃げるのを防ぐだと? しかも、宇都宮のような職員ではないとすると?

ともかく、これでは変電所の中に入れはしなかった。敷井達は内部設備を前にしながら戸口で足止めを喰っていた。鉄条網を排除しなければ通れない。電流をどうにかしないとこのトゲ線をどうにかできない。

尾有が言う。「さっきまで、このトゲ線はなかったんだろ。ここにただ置いて電気を流しただけ。えらく簡単な仕掛けだから囮かと思ったけれど、そういうわけでもなさそうだ。これはトーシロの仕事だよ」

流山が、「かもな。大体、〈石崎の僕(しもべ)〉なんて……」

「ああ。いつだってやることは杜撰(ずさん)だろ。プロの仕事ができる人間の集まりじゃない」

「それで? 何が言いたいんだ」

「だから石崎を信じてて、死んでも後で石崎が生き返らせてくれると信じてんだろ。それで『先生万歳』と叫んで今日ここで死ぬ……」

「うん」

「とは言ってもだ。そんなの、さすがに絶対ってことはないんじゃないかな。イザとなったら怖気(おじけ)づいて逃げようとするやつも出る」

「ああ」

と流山が言った。続いて、「うん」「そうだな」と何人かが頷く。

「これはそんな人間の脱走を防ぐためのもんだよ。けど逆に……」

「うん?」

「石崎自身はここから逃げる。あいつだけは側近を連れてここから脱出するんだ。石崎が通るときだけ電流を切って、下っ端はここに置き去り」

「『ワタシの盾で死ねるのならば本望だろう』と……」

「そう、そういうことだ」

「ふうん、そんなとこかもしれんな」

流山が言うと皆が頷いた。確かに石崎という男は、やることがいつもそんな調子であることが広く一般に知られている。自分を信じてついてくる者を見捨ててひとりだけ逃げる。それを何度繰り返しても、なぜか進んで借金の保証人になる者がいる。信じちゃいけない人間を信じちゃいけないとわからないのか。

「石崎だけの脱出口か」足立が仕掛けを見ながら言った。「こんなの確保しておいても、今度ばかりは逃げられると思えないが」

「だろうね」

と尾有。そうだろうと敷井も思った。歴史上の独裁者は最後に多くが役に立たない脱出口に飛び込んだ挙句にはまって出られなくなる。それが末路だ。石崎も、もしも本当にここから逃げようとしたならば、この荊棘(いばら)に自分で絡まり電気で焼かれて死ぬのがオチなのではないか。

そのように思えた。あの男にはそれが最もふさわしい最後であるような気もする。

「まあともかく、線を斬って電流を止めたら、たぶんドカンと爆発だろうな。ほら、そこに箱があるだろ」

尾有は言って戸口の向こうにあるものを示した。金属製の手提げトランクのようなものだ。床に置かれたそれから電気のケーブルが伸びて、鉄条網に繋がっている。

「あれだ。あれが爆弾だ。あれをどうにかしなけりゃドカーン」

流山が言う。「どうするんだよ。何か手はあるのか」

「さて……」と尾有は言った。