敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
4か5か
「本当にこれで古代に通じるのか?」
真田が言うと、島は困った表情になった。うーんと唸(うな)って隣の席の南部を見やる。南部は自分のすぐ前の窓の霜を拭いて向こうを眺めやっていた。そのようすを島は訝(いぶか)しげに見てから、
「でもまあ『やえ』はともかくとして、『よのなか』と言えば意味はひとつだと思うんですよ。古代なら……」
「うーん」
と、真田の方が唸らされた。島の口調はてんで自信がありそうにない。
そこに新見が、「通じたとして、どうなんでしょう。〈ゼロ〉で衛星は墜とせませんよね?」
「うーん」
とまた真田は唸った。自分は戦術は素人だ。そんなこと言われても、新見にはこう返すしかない。
「そうなの?」
「ええ。低軌道ならともかく、〈L5〉となると星から離れ過ぎていて〈ゼロ〉のビームは届きません。〈ヤマト〉の副砲くらいの威力がないと破壊不能でしょう」
「それはわかる。けれど〈ゼロ〉なら、スピードにモノを言わせてポイントまですぐ辿り着けるんじゃないのか」
「ええ。けれどこの星でそれをやるのは無理でしょう。対空砲火の弾幕にモロに突っ込むことになります。敵はすぐ、〈ゼロ〉がやろうとしていることに気づくはずですからね。〈ゼロ〉が進んでいる先に砲火が集中することになる」
「うん」
と南部が窓を見ながら頷いて言った。この男は砲雷術の専門家だ。古代が新見が言う通りのことをするのなら、自分であればわけなく墜とせるとでもいう自信がありそうな口調だった。それにしてもさっきから、この男は何をチラチラ、窓の外を気にした顔で見ているのだか。
「それに、ラグランジュ・ポイントには、いくつもダミーのカガミ衛星があるはずなんでしょ。その中から本物の〈鏡〉を見つけるなんて……」
「まあな」
「けど、なんで〈4〉ではなくて〈5〉なんです? 副長は〈4〉と〈5〉の両方に〈鏡〉があるはずと考えてるんですよね?」
「それか。なら簡単なことだ。敵は〈4〉と〈5〉、両方にあるラグランジュ・ポイントの衛星を一度に要(かなめ)の〈鏡〉として使うことはできない。ビーム砲台がこの星の北極か南極のどちらかにあると言うなら話は別だが、それも絶対にないことだからな」
「は?」
「あるいは、砲台のある場所が、たまたま両方のポイントを狙える時刻と言うこともあるが、それもまずないだろう。今やつらが使っているのは〈L5〉の方だ。だから古代がそれに気づいて向かってくれれば……」
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之