敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
伏兵
敷井と足立と宇都宮の三人は、巨大な変圧器の並ぶ区画の中を走っていた。広い構内に自分達の足音と、〈石崎の僕(しもべ)〉どもが撃つ〈AK〉の銃声が反響する。
変圧器と変圧器の間に敷井は飛び込んだ。するとその先に、区画の突き当たりの壁があった。四角い口が開いていて、奥に階段があるのが見える。
「あれです!」宇都宮が叫んだ。「あれが出口だ! あれを登れば――」
そこに石崎がいると言うこと? そう思ったときだった。宇都宮の言う〈出口〉から、
「うおおっ!」
と雄叫びを上げながら男がひとり飛び出してきた。手には〈AK〉。メチャメチャに乱射する。
「ぎゃっ!」
と叫んだのは足立だった。タマを身体に喰らったらしい。男はその足立に向かってまっすぐ突っ込んでくる。
〈AK〉の先には銃剣が付いていた。その刃で男は足立の胸を突き刺した。
「ぐっ」
と足立。男は、「死ねえっ!」と叫んで剣の先を捻(ねじ)るようにした。
「てめえ……」
と言った足立の口から血が溢(あふ)れ出た。
「死ね!」
と男はまた叫ぶ。敷井達がどこを目指しているかに気づいて待ち伏せしていたのに違いなかった。血走った眼で足立を睨み、それから敷井にその眼を向ける。
「ここは絶対に通さん!」
怒鳴った。足立の胸から力まかせに銃剣の先を抜いて、敷井に向ける。血まみれの銃口が火を噴いた。
しかし、その寸前だ。足立が男の手に組み付いていた。フルオートで連射される銃弾は、反動でデタラメな方へ飛んでいく。
「野郎……」
と足立。血を吐きながら自分の銃を持ち上げる。
あまりのことに、敷井は反応が遅れてしまった。慌てて銃を向けたときには、足立がビームで男の身体をブチ抜いていた。
「ぐあっ!」
と叫んで男はよろける。それでもふらつきながら〈AK〉を足立に向けた。
足立と男は、銃剣で互いの身体を突き刺しあった。
血しぶきがあがる。足立の剣は男の喉笛を貫いていた。頸動脈から血を噴き出して男は倒れる。
足立もまた転がった。その体から流れ出る血が床に広がる。
「足立!」
言って敷井は駆け寄った。すると足立はニヤリと笑う。
「行け。おれはもうダメだ」
と言った。その口からまた血が溢れ出る。
そのときだった。別の方からまた〈石崎の僕〉が現れ、銃をバリバリと撃ってきた。さらに次から次にやって来るものらしい音が聞こえる。
「行け!」
足立は言って、寝転がったまま銃を構えた。〈僕〉に向けて連射しながら、「早く!」
「すまん!」
と、言って敷井は走り出した。壁に開いた出口に飛び込み、その先にある階段を上る。
宇都宮がついてきた。背中に足立の最後の雄叫び声が聞こえた。
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之