敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
ロック・オン
〈バラノドン〉の群れは空中でひとつに固まり下降に転じた。ゼブラ模様の影がかかった冥王星の地面めがけて加速する。その先には32個の小さな光。
地球人の戦闘機のエンジンが放つ噴射炎だ。うち二機だけが、他の三十とわずかに色が違っている。それが隊を指揮するための機体であるのを、ガミラス側の管制は読み取ってバラノドン隊に伝えていた。
そして命令――次はあれだ。あれを墜とせ。二機いるうちの先頭のやつだ。
「了解」
と応じながらも、バラノドン隊の隊長は『わざわざ言われるまでもない』と考えていた。
上から見れば、教えてもらうまでもなく、あれが敵の隊長機だとすぐわかる。今までは他の全機があれの背中を護るようなフォーメーションを組んでいたのもまたわかることだった。
それが今では違っている。あの銀色のやつ一機で他の全機を護ろうとでもしているような陣形だ。
やった、と思った。元よりそれが初めからのこちらの狙いだったのだ。端にいるのを二機も墜とせば、今度はあの隊長機が他を護ろうとするに違いない。そのときに自身の背中はほぼガラ空き。〈やつ〉の後ろには同じ型の二番機がいるだけとなる。
やつはまんまともくろんだ通りの動きをしてくれた。当然だ。慌てふためく部下を見れば、指揮官ならばまず何よりもそれを助けようとするはず。そのとき自分のことはおろそか――。
そこをめがけて一気に突く。それが最初からこちらの狙いだ! バラノドン隊の隊長は思った。あらためて命令されるまでもない。ここで次の標的とするのはあの〈銀色のやつ〉に決まってるのだ。ここであれを殺ってしまえば残りを始末するのはもう容易いこと。
〈バラノドン〉の群体は獲物めがけて急降下した。なおも加速。目標との距離が縮まる。
ミサイルを射ち放った後で地面にぶつからずに済むギリギリまで速度を上げた。レーダーが敵を補足しロック・オンするまで数秒。この速度でミサイルを射てば、敵が何をしようとも躱すことなど絶対に不可能――。
と、思ったときだった。突然にレーダー像からその標的の指標が消えた。そして警報――逆にこちらが敵にレーダー・ロックを掛けられたと言う警告だった。
「何?」
と言った。次の瞬間、こちらめがけて飛んでくる二発のミサイルを彼の眼は見た。
ヘッド・オンだ。とても躱せるものではない。
爆発した。
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之