敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
経験の差
「なんだ? 何がどうなって……」
古代は言った。レーダーには逃げ散らばる敵の姿が映っている。何機か地面に激突し、さらに逃げ遅れた数機を今、タイガー乗りらが散開して追いかけているのもわかる。わかるが、しかしどういうことか。
『殺ったぞ! どうだ、イシダの仇だ!』『ちくしょう、上に逃げられちまった。運のいいやつめ!』
通信でタイガー隊の者らが交わす声が耳に入ってくる。隊の間での交信は今も、敵にはまず傍受できないだろうとされる〈糸電話〉だ。
どうやら慌てふためいたのは、今度は敵の方らしい――と、古代にもどうにかわかった。敵どもが危なく地面にぶつかるところを回避して、フラフラ飛行になったところをトップガンのタイガー乗り達は見逃さずに追いかけたのだ。
七、八機を瞬(またた)くうちに撃墜し、残りの敵はやっとのことで上空へと逃げていった。墜落こそ免れたものの大きな損傷を受けたらしい敵も何機かいるらしく見える。
『合計で16、7は片付けたな』加藤の声が入ってきた。『どうだい、これが、おれ達の実力ってもんだよ、なあ!』
『おうっ!』
と一斉に、タイガー乗り達の声が広がる。
「え? どういうことなんだ?」
古代が言うと、また加藤が、
『やっぱりまだまだ甘いな、隊長。完全に敵の手の内にはまっていたぜ。山本が気づいてなければ殺られていたよ』
「ああ……どうもそうらしいけど……」
敵が自分を狙って攻撃かけてきたのを山本が救けてくれたのはわかってもいる。だが、しかし……。
『いいえ、わたしも気がついていたわけではありません』山本の声がした。『〈ヤマト〉がサインを送ってくれたからですよ。「アタマを護れ」と言う意味の……それで敵の考えが読めたんです』
『ああ』
と加藤。確かにあの数秒前、HUDにそんなサインが表れたのは古代も見ていた。通信士の相原が送ってきたものなのだろうが――。
つまり、と思った。敵がこのおれを次に殺ろうとしているのをいち早くに〈ヤマト〉が気づいて報せてくれた。簡単なサインひとつ見ただけで、歴戦のプロである山本や加藤と他のタイガー乗りには状況が飲み込めて、的確に行動しておれを救い、敵が乱れた機に乗じた。その結果があっと言う間の大量撃破。
――と、そう言うことになるのか。このエース集団の中でおれがアマチュアだったことが、逆に幸いした……。
『ま、気にすんなよ、隊長』加藤の声がした。『こういうときは経験がモノを言うってだけさ』
「ちぇっ」
と言った。こんなやつらの上なんかでおれはほんとにやっていけるんだろうかと思わずにいられなかった。
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之