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敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女

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勝負の流れ



『ダメです、反重力装置を殺られた……ですが……』

〈バラノドン〉の一機が通信を送ってくる。それに対して隊長は応えた。

「わかった。お前はもういい。退(ひ)け」

『待ってください。わたしはまだ……』

「いいから退け!」

隊長は言った。反重力装置を失くした反重力戦闘機が、空戦でなんの役に立つのか。足手まといを連れていても他に危険を及ぼすだけだ。

ヨタヨタと右に左にフラつきながら飛ぶその機を追い払うと、ディスプレイに表示される失った機の数字がひとつ増えた。

これで20――百機からなる編隊がただの一度に二割を失くした。遥か低空を飛ぶ敵を忌々(いまいま)しい思いで見つめる。特にそのうちのひとつの点を。

「やはり侮(あなど)れないやつだ。あの隊長機――こちらの手に乗ったと見えたのは誘いだったのか? だとしたらよほどの手練(てだ)れ……」

『かもしれません。そうでもなければ、いくらなんでも一度にこんな……』

すぐ後ろに付く部下の機が応じてくる。その機もまた、敵のビームをいくらか喰らっているはずだ。そして自分の機もまた――。

彼は機のコンピュータが今の機体の状態をチェックしている画面に眼をやってみた。ミサイルを避けるためにとった機動と、地面に激突寸前にかけた無理な急制動のために、この機も各所にダメージを受けてしまったようだ。

「おのれ……」

歯軋りして思う。地球の〈ヤマト〉戦闘機隊。やはり相当な強敵だ。機の性能ばかりでなく、それを乗りこなす技倆と経験――。

そうだ。経験だ。やつらの方が悔しいかな機の性能が上であり、戦闘で生き延びる率が高い。それがために場数を踏んでより強くなることができ、今のような状況で勝敗を決める要因となる。

『三対一があっと言う間に八対三だ。やはりまともにやっては勝てない……』『どうするんだ、今まで通り固まって行くのか?』『他になかろう。この戦法は有効なはずだ!』『しかし敵が同じ手で来たら……』『いいや、こっちもそうそう同じ手は喰わん!』『しかしそれでもこちらが不利では?』

パイロット達がてんでに通信を交わしている。まずい兆候だった。地面に激突しかけたうえに、敵に追われて命カラガラ上に逃げてきたことが皆の心に動揺となって表れている。

なんとかしなければ、と思った。このままなんの考えも無しに同じ戦法で行ったなら、また十機もいっぺんに失うことになりかねない。

「やめろ」と言った。「うろたえるな。まだこちらが有利なのだ。それが変わったわけではない」

『かもしれませんが……』とひとりが言う。

「わからんのか。まだこちらは空の高みを安全圏にできる強みを持っている。やつらにそんなものはない。そしてもうひとつ……」

と言った。それから、

「我々がここにこうしている限り、やつらはビーム砲台を探すことはできんのだ。そうしたならばまた〈百機で一機を〉の戦法が有効になるわけだからな」

『それはそうでしょうが』とまた部下が言う。

〈百機で一機を34回〉――だが今はもう〈八十で一機を〉と言い直さねばならないのかと隊長は思った。しかしまあいい。同じことだ。

やつらは元々、〈反射衛星砲〉の砲台を探す目的でそこにいる。そのためには下を眺めて空を飛ばねばならないのだから、上を同時に警戒できない。

そうだ。やつらに砲台を探したくても探せぬようにするのはまだ可能なのだ。つまり、まだまだこちらが有利。無理にあの銀色のやつを墜とそうとさえしなければ――。

そうだ。勝ち目はこちらにある。この機体もおれもまだ戦える。敗けてはいないと彼は思った。

そうだ。勝負は始まったばかりだ。