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敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女

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ハイペロン爆弾



〈ハイペロン爆弾〉とは一体何か。

それは日本語で〈重核子爆弾〉と呼ばれている。重核子とは何かと言うと、なんだろう。そんなこと、まさかほんとに知りたい人がいるものとは思われないし、詳しくここに書いたところで読んでも二秒で忘れるだろう。あなたの脳に名前をつけて保存されることは決してないと確信される。

とにかく、重核子の爆弾である。どうせハッタリなのだからそれがどんな爆弾かなどどうでもいいことである。石崎は、もう間違えないようにボールペンで自分の掌に《ハイペろソ》と書いた文字を見ながらニタついていた。

ハイペロン――なんだか知らぬが、恐ろしげな名前ではないか。呪いの電波兵器のようなもので、それがハイぺろーんとなると人はみんな胸を押さえて死んでしまうような気がする。しかし生命活動が止まるだけのことだから、このわたしの手が触れるとその者だけ甦るのだ。

ウン、そうだ。それでいこう。そういうものと決めてしまおうと石崎は思った。だから〈ハイペロン爆弾〉とは、ここではそういう爆弾である。けれども別に石崎は人に説明はしないから、聞いた者達はキョトンとしている。

そうだ。ただのハッタリだった。何も用意などしていない。元々この石崎和昭と言う男は、何か物事を始めるにあたって、周到な計画を立てたことなど一度もない。見切り発車の出たとこ勝負で、たまに何かがうまくいっても、別の者がしたことだ。けれどもそれを取り上げて自分の手柄にしてしまう。

この停電作戦も、すべてが杜撰(ずさん)のひとことだった。今、遂に変電所を奪還しつつある者達は、石崎が何か奥の手を隠しているのではないかと恐れているが、実はそんなもの何もなかった。電気はレバー一本を動かしてやればそれで戻る。

トラップなど仕掛けていない。この作戦は成功すると信じ込んでいたのだから、仕掛けるはずなどないではないか。失敗したときのことなんか、ひとつも考えていなかったのだ。

そんな石崎の眼には今、そこに爆弾があるのが見えた。いかにもペロペローン!としたペロペロンな爆弾だ。そんなの、本当はないのだから、それは透明な爆弾である。ボタンを押せば透明な百の走り手が飛び出して、自分の敵だけ呪いの力で殺してくれる。そんな光景を夢想していた。

〈愛〉の勝利だ。ここへ来て、遂に神は自分に味方したのだと彼は胸に叫んでいた。ありがとう、神よ、ありがとう!

「わたしに刃向かう者らに告げる。完全に包囲したつもりであろうがそうはいかん。無駄な抵抗はやめたまえ。最後に勝つのは常に正義であり〈愛〉なのだ。これ以上、わたしを殺すか電力を元に戻そうとするならば、わたしはただちに、ハイペ、3?……ロン爆弾を使用する。わたしに従う者のみ命を救けよう。しかしそうでない者は、今日限りの命と思え」

マイクを手にして石崎は言った。その声がスピーカーで響き渡り、ラジオ電波で地下東京の隅々まで届いているのを確かめて、彼は満足の笑みを浮かべる。

「そうとも」と言った。「切り札は最後まで取っておくものだ」