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敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女

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肉体労働と頭脳労働



『機関長……』

藪の声が〈ヤマト〉第一艦橋の徳川の耳に聞こえている。

『一体……これ……あとどんだけ……おれは回したら……いいんですか……』

藪はエンジンの炉の中でヒイヒイゼイゼイと息を吐きつつまだ重いハンドルを回し続けているのだった。徳川は言う。

「頑張れ藪。あと少しだ」

『そんな……「あと少し」って……一体いつまで……』

「まだ何分もやっとらんだろう」

『そうなんですか……なんか凄い長い時間……やってる気がするんですけど……』

「気のせいだ」

と徳川は言った。ほんとに始めて数分しか経ってないのだから気のせいに違いない。藪にとっては腕立て伏せを五、六分間も続けさせられてるようなものなのだから長く感じて当然かもしれないが。

艦橋にはもうひとり、酷な作業をやらされている者がいる。しかし肉体労働でなく、こちらは頭脳労働だが。

南部だ。今、彼もウンウンと唸りながら紙に数式を書き連ねていた。複雑怪奇な数学の式が凄い勢いでページを埋めて、それがこの五分ばかりのうちにも何枚にもなっている。横で真田がその作業を見守っていた。

他のクルーは半ばあきれた表情で、メガネの顔を卓に突っ込むようにしてペンを走らす南部の頭を各自の席から眺めている。

宇宙軍艦の艦橋で紙は滅多に使われることのない物質だ。クルーは普通、電子パッドにタッチペンで字を書くか、キーボードを叩くことに慣れている。けれど数式と言うものは、技術がいかに進もうとも手を使って紙に書くのに優る記述手段はない。そうでなければ頭の中で人はその式を演算できない。それは、普通の人間には、何が何やらまるでわからぬシロモノだが――。

南部は手を動かしている。やっているのは真田が途中までやったと言うビームの弾道計算の続きだ。真田はこれが解けたなら〈魔女〉の位置が判明し、その座標に古代をまっすぐ向かわすことができると言ったが、

「ええと」と南部。「本来は冥王星の自転や重力、磁場や大気の屈折にカロンの影響など加えて修正せねばなりませんが……」

「そこまではいい。およその位置がわかりさえすれば、後は航空隊が眼で見つけられるはずだからな」

「この計算ができるのは南部さんだけ……」新見が言う。「でも、〈点〉でわかるんですか?」

「いや。おそらく、点では無理……」

「え?」

と島が言った。他の皆も、『話が違うじゃないか』という顔をして真田を見た。

さっき真田は、『うまくいけば敵のビーム砲台の位置を〈点〉で特定できる』と沖田に向かって言った。それが今はなんだか違うことを言い、それでも南部にまだ計算をさせている。

「そう」と南部も、ペンを動かしながら言った。「おれもたぶん、点ではわからないんじゃないかと……」

「え?」とまた島が言った。「だったらそれ、なんの意味が……」