敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
砲台
「フフフ、〈ヤマト〉め。中のやつらが慌てるさまが見えるようだわ」
と、シュルツは喜びを抑えきれないようすで言った。冥王星基地司令室。彼が向かうスクリーンには〈ヤマト〉の動きが線で表示されている。その進路は明らかに、デタラメに舵を切って向きを変えつつ進むしかない船のものだった。
「ククク……」とガンツも笑い、それから言う。「地球人もこちらが対艦ビーム砲で星を護っているのは予期していたようですね」
「だろうな。まあ当然のことだ。しかしやつらは砲台が宇宙にあるとは考えなかった。星の地面に固定され、数は一基かせいぜい二基と考えていた……」
「やつらとしてはそう思うでしょう」
「そうだ。それがこちらの限界だとな。悔しいかなその通りと言えばその通りでもあるからな。しかし……」
シュルツは言って別のスクリーンに眼を向けた。大出力の固定ビーム砲台だと一見してわかる物体が映っている。地に据え置かれて斜め上方に向けて突き立つ円筒形の太い柱。
カメラで撮られた画(え)で見ても、それがかなりの大きさを持っているのが窺い知れる。太古の昔に地球の上をノシ歩いたティラノサウルスなどと呼ばれる種類の巨竜――それと同じ大きさを持つであろうと思えるものが、躰をもたげて鼻面を天に向けているのだ。そして、恐竜の尻尾のように、エネルギーを送るパイプが後ろに繋がっている。
しかし、大きさはともかくとして、その形状はまるで地球の磯(いそ)で見るフジツボかエボシ貝とでも言う生き物のようだった。恐竜ならば頭があるべき砲の先端は、まさに烏帽子(えぼし)か花の蕾といった形に膨らみ尖っていて、高い熱を帯びているらしく赤い光を放っている。
「まさかこのようなものであるとは思うまい」
シュルツは言った。言ったが、しかし、それだけ見れば、砲として特に変わったことはない。『まさかこのような』とシュルツが言うのは、その尖った烏帽子が差す先の空間のことだった。
ビーム砲はそれが撃つべき〈ヤマト〉の方角を向いていない。まるであさっての天へ突き立ち、一点を狙ったままに動こうとしない。火線の先の宇宙空間に浮かんでいるのは、四弁の花のような形の物体。
〈ヤマト〉にビームを当てたのと同じ人工衛星だ。
「〈反射衛星砲〉……」ガンツもニヤリと笑って言った。「三発目を撃ちますか?」
「いいや、まだだ。この距離では直撃でもたいした傷は与えられまい。衛星も数に限りがあるからな。撃って躱されてしまったら、こっちがまた〈カガミ〉をひとつ殺られるだけだ。それではつまらん……次の一撃はもう少し近づいたところで喰らわせてやらねばならん」
「近づいてきますかね?」
「来るさ。ここで我らに勝たなければ、地球人類は今日のうちに消え去るのだ。やつらとしては逃げるわけにはいかんだろうよ」
「確かにそうではあるのですが……」
「敵わぬものと見たならばあの船だけでも逃げねばならぬ、か。それもある意味では勇気だ。いつか、やつらが言ったところの〈メ号作戦〉のときのようにな。あのときに一隻だけ逃げ帰った船があったな。しかし今度ばかりはどうか……」
「今日は逃げずに向かってくるとお考えですか?」
「だから、それを見るためにも三発目は待とうと言うのだ。まだ撃つなよ。発射準備をしたうえで待て」
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之