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敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女

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「待て待て。早まるもんじゃない。な? そうだろ。わたしが何をしたと言うんだ。わたしはただ〈愛〉のため、すべては良かれと思ってだな……ええと、そうだよ。〈愛〉だよ、〈愛〉。愛はアウより出でてアエよりアオしと言ってだな。愛愛愛愛、愛愛愛愛、おさーる……いやいや、〈愛〉だ。〈愛〉なんだ」

泣き顔で言う。パニクるあまりに自分でも何を言ってるかもうわからない状態のようだ。

「な。どうだね。これをやろう。カネだ。お金だよ。たくさんあるぞ。君に一割……いや、二割……二割五分……いや、三割だ。三割あげよう。四割? 五割かな。いや、まさか……あの、君ね。これだけのカネをひとりでなんに使うと言うのか……いやいやいやいや、待ちなさい。わかった。全部だ。全部あげよう。だからわたしを見逃してくれ」

後生大事に抱えていた鞄を敷井に見せつける。なんだ中身はカネなのか、そんなものなんの役に立つと思うんだと敷井はあきれて考えたが、石崎は右手をまだ懐に入れてガサゴソやっていた。

――と、その手を急に抜き出す。

「わあっ!」

叫んだ。同時に白い閃光と、バーンと言う音がその手から発せられた。

石崎が取り出したのは小型のビーム拳銃だった。それを抜きざまに敷井めがけて撃ったのだ。

いや、自分ではそのように撃ったつもりのようだったが、てんでデタラメなめくら撃ちだった。勢いあまって引き金を引いただけの暴発だ。光線は2メートルしか離れていない敷井にかすりもしないどころか、まるで見当違いの方に飛んでいった。

「わわ」

と石崎はまた叫び、続けて拳銃を連射した。ビームが敷井の身をかすめる。敷井も飛び出し、銃剣で石崎に突き掛かった。

ビームが敷井の体を貫く。

銃剣は石崎の鞄に刺さり、切っ先はその途中で止まった。

「う……」

敷井は呻いた。すると石崎はグフフと笑い、

「バカめ」と言った。「お前のような若造に殺られるわたしではないわ」

またビーム拳銃を撃つ。それから勝ち誇った顔で、

「わははは、これが〈愛〉の力だ! 最後に勝つのはやはり〈愛〉だ! わたしは死なん。必ず、どんな状況も、〈愛〉が乗り越えさせてくれる。そうだ! 〈愛〉がある限り、わたしが敗けることなどないのだ!」

「うう……」

よろけた。銃剣の先が鞄から抜ける。そのまま敷井は後ろに倒れそうになった。

そのときだった。石崎の持つ鞄から、ザラザラと音を立てて何か豆粒のようなものが落ちて床に散らばるのが見えた。キラキラと赤青白に光っている。

「やや」

と言って石崎は、慌てて床に眼を向けた。ために、頭のてっぺんが敷井の方に向けられて、そこもピカピカと光り輝いているのがわかった。

石崎の頭はなんとハゲていたのだ。いや、その鞄の中身は現金ではなかったのだ。ワワワと言って石崎が、拳銃を持ったままの右手で鞄に開いた穴を押さえた。

そのときだった。ドーンと言う爆発音とともに部屋が大きく揺れた。その後から『よし、こっちだな!』『石崎はどこだ!』などと叫ぶ声が聞こえてくる。

突入した者達が、敷井に続いて石崎を遂に追い詰めにきたらしい。さらにまた、『あっちです!』などと兵士を誘導するものらしい声も聞こえるが、これは先ほど敷井が救けた変電所の職員のものなのだろうか。

「わわわ」

とまた石崎が言う。鞄を抱えてオロオロするが、この男にはもうそれ以外、何も無いのは明らかだった。

そして敷井に眼を向けてくる。敷井はその顔を見返して、ニヤリと笑いかけてやった。

やったぞ、と思う。足立。それから他のみんな。おれ達はこいつに勝ったんだ。この勝利はおれ達みんなのものだ。

よろめく体を立ち直らせた。銃剣を石崎に向けて足を踏み出す。

石崎はまだ拳銃を持っている。だが、いいとも、と敷井は思った。撃つなら撃て。もうここで死んでおれは満足だ。笑ってあの世に行ってやる。

「く、来るな……」

石崎は言った。震える手で銃を敷井に向けてきたが、しかし引き金は引かなかった。代わりに言った。

「な。頼む。逃がしてくれ。これをやるから……」穴の開いた鞄をかざす。「ほら、宝石だ。金貨もある。だから……」

「へえ」

と言った。ニヤリと笑うと、石崎は愛想笑いを返してきた。なるほど明日の地下都市で、紙幣や電子マネーの類(たぐい)がなんの値打ちも持つはずがない。それでも金貨や宝石ならば少しは価値があるかもしれない。

しかし、と思った。

「要らねえよ」

言って敷井は剣先を石崎の喉に突き刺した。頚動脈を切ったらしく、赤い鮮血が噴き出した。

敷井はその返り血を浴びる。石崎の手から鞄が落ちて、その衝撃で剣が開けた穴が広がり、宝石や金貨を床にブチ撒けた。

それらの上にも血が降りかかる。石崎は「げふ」と言うような声を上げ、その口からも血を吐きながら倒れ伏した。

敷井は銃剣を杖にして血溜まりの中に立ちながら、その死体を見下ろした。

そこで気が遠くなる。敷井はニヤリと笑いながら、崩れるように床に倒れた。