敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
目標2
「うおおおおっ!」
叫んだのはガミラス戦艦残り二隻のうち一方の艦長だった。〈ヤマト〉からは〈目標2〉と勝手に呼ばれているのを知らない。
彼にはただ、叫ぶことしかできなかった。何しろ自艦めがけてまっすぐ、かつては僚(とも)であった船の残骸がブッ飛んでくるのだ。
「避(よ)けろ!」
そう叫んだが、しかし無理とわかっていた。命じなくても操舵士は、エンジンを逆噴射させ舵を目一杯に切り、必死に船の先を横にそらそうとしている。
だが間に合うものではなかった。『これは何かの冗談だ、頼む、どうか外れてくれ』と祈る以外に何もできない。
その祈りは虚(むな)しかった。僚の残骸は彼の船の艦首に激突。その衝撃で彼は床から突き上げられて天井まで飛び上がった。
体を叩きつけられる。僚の残骸はバラバラになり、グシャグシャにひしゃげ折れ曲がりながらこちらの船体を引き裂いていった。穴を開け、装甲を剥がし、砲をもぎ、アンテナや安定翼を叩き割る。
艦橋の窓も全面にヒビが入った。その寸前に彼の眼は、〈ヤマト〉が残りもう一隻に向かって飛んでいくのを視界の隅に捉えていた。
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之