敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
撃沈
「魚雷です! 六方向から!」
〈目標2〉と〈ヤマト〉が呼ぶガミラス艦の艦橋で、レーダーのオペレーターが悲鳴のような声を上げる。
「迎撃しろ!」
とその船の艦長は叫んだが、しかし無駄だとわかっていた。船はすべての舵を失い、回避などはままならず、レーダーは〈影〉を捉えはするもののそれを追いかけ照準を定める力は奪われている。
そして何より、対空火器で生きているものはほとんどないのだ。アンチミサイル・ミサイルは発射口の蓋さえ開かず、対空ビームは砲身が曲がり、もぎ取られてしまっている。レーダーの攪乱装置もアンテナが無くなっていて動かない。
「無理です。この状態では!」
戦術士が言わずもがなの声を叫ぶ。ゆえに艦長の彼は、かろうじてまだ生きているレーダーが映すノイズだらけの画面を見るしかできなかった。
自艦めがけて六方から向かってくる魚雷の航跡。彼はその六本の線も半壊した機器が見せるノイズでどうかあってほしいと願ったが、その望みは虚しかった。六の指標が船に届くと同時に床を衝撃が襲い、すでにヒビだらけだった窓が一斉に弾け、壁も天井もすべてがグニャリとひしゃげて捻(ねじ)れ歪んだかと思うと次の瞬間には、白い光に何もかもが包まれて彼の存在もまた消えた。
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之