敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
目視
「〈ヤマト〉健在? 無事なのか?」〈ゼロ〉のコクピットで古代は言った。「けど……」
キャノピー窓から下を見る。まるで三浦の磯のような景色の中に、三浦の磯で子供の頃に古代が棒で突っついたカメノテとかエボシ貝と言った生物のようなものが見える。よく見ねばわからぬが――。
しかしまったくあのテの生き物そっくりだった。岩に開いた穴を覗くと、奥の方になんだか鳥の嘴(くちばし)のような尖(とが)ったものが蠢(うごめ)いていて、出ては引っ込み口を開けたり閉じたりしている。磯で見たのは指先ばかりの大きさだが、今に眼下に見下ろすものは、デカい。デカいが、見えるのはおそらくその先端だけだ。ビームを撃って口を閉じ引っ込んでいった寸前に、その内部にまさに鳥の舌か花の蕾のようなものが見えた気もしたが……。
それが、〈魔女〉――カクカク対艦ビームの砲台であるのはもう間違いない。しかし、と思った。
『〈アルファー・ワン〉、聞こえるか?』
通信で相原の声が入ってきた。「聞こえる」と応えると、
『おそらくその砲台は、核にも耐える造りだろう。敵が衛星で反射させて船を撃つようにしていたのは、砲そのものを地下深くに設置して攻撃から護る意味もあったのだと思われる。画像から見て、それにめがけて核を射っても穴の入り口に当たってしまい、奥深くまで破壊できる望みは薄い』
「やっぱり」と言った。
『了解したな? しかし殺る方法はある。いったん高く上昇して、垂直に上から突っ込みを掛けるんだ。そうしてまっすぐ狙って撃てば入り口に当たらずに、奥にブチ込んでやれるだろう。それで〈魔女〉もおしまいのはずだ』
「了解」
『幸運を祈る』
通信は切れた。
「やっぱり……」
とまた古代はひとりでつぶやいた。やっぱり、あのテの生物と同じ。棒で突っつけと言うことか。
しかし、と思う。『いったん高く上昇しろ』と言うけれど……。
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之